2016.06.28 インタビュー・対談

映画に憑かれた男たちの「狂気と侠気」の物語

聞き手: 「本の話」編集部

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)

映画に憑かれた男たちの「狂気と侠気」の物語

去る6月14日、東京八重洲ブックセンター本店にて、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』の文庫化記念トークイベントが開催されました。時代劇から「仁義なき戦い」まで――東映に集結した映画人群像を描き上げた時代劇・映画史研究者の春日太一さんのお相手は、単行本時から本書を激賞し、このたびの文庫に解説を寄せた水道橋博士さん。90分にわたって繰り広げられた熱い対談の模様の一部をお届けします。

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)

春日 お会いするのは1年ぶりくらいでしょうか。「マッドマックス」を劇場で観たときに。

水道橋 ああ、ユナイテッド・シネマとしまえんで。あれは偶然でしたよね。

春日 それにしても今回は、本当に素晴らしい解説を寄せてくださり、ありがとうございました。博士さんに認識していただいたのは、文春新書の『天才 勝新太郎』をご高評いただいて以来ですが、いつか博士さんに文庫解説をいただきたいと思い続けていたんです。ついにこの時が来ました。

水道橋 3月に解説を書き上げたんだけど、今年は正月からずーっと春日太一のことを考えてましたからね(笑)。国会図書館にある春日さんの「博士論文」も探しましたから。博士が博士論文探すって……、と思いながら。

春日 ありがとうございます。最初に書き上げていただいた解説は2万字になったと聞いていますが……。

水道橋 もしかしたら、もっとあるかも(笑)。僕にとっての理想の文庫解説というのは、解説を読んだ人がその著者の過去作品を遡って読みたくなるようなものであり、未来の本すらも読みたくなるもの。だから、春日さんのデビュー作から今、執筆中の本まで触れている。本当に字数を収めるため言葉を選んで、何度も書き直してようやく辿り着きました。それも春日さんの10年に恥じないよう文士の気分で書いていました。ここに草稿がありますけど、これを文庫に納めるべく6000字まで削っていくのが大変だった。

春日 そこまでしていただいて感激です。著者冥利に尽きます。

水道橋 解説を書くにあたってまず確認したのは、単行本の表紙が文庫でも踏襲されるか、ということ。単行本の時から、この書影はいいんですよ、強くて。「書影に押される」って感覚を受けました。僕の解説は、読者が表紙を捲れば、すぐに東映的な怒涛の波に否応なく巻き込まれるイメージをトレースするところから始めました。

春日 この表紙は外せませんよね。カメラマンがわざわざ台風の日に犬吠埼に行って来てくれて撮影したものなんです。表紙に関しては、僕もいろいろと案を出したし、いろんな人の魂が込められている表紙です。

冒頭でいきなり泣かせる

水道橋 映画の裏方さんの声を聞いて、役者という主役の姿を浮かび上がらせる。春日さんの手法はこの『あかんやつら』でも発揮されているわけですけど、本当に裏方、スタッフの方々のお話っていうのは面白い。『あかんやつら』何度も読みなおしながら、あまりに裏方さんの固有名詞が多いので、俺、登場するスタッフ表まで作っちゃった。

春日 冒頭からして、東映の関係者がみんな伏せていた「小指のない門番」並河正夫さんの登場です。

水道橋 並河さんのエピソードで、いきなり泣かせますからね。並河さんは山城新伍さんがよく「東映は門番からヤクザだ」って言ってましたね。でも初めてその経歴について知りました。出てくるスタッフは男ばかりなんだけど、文庫では田中美佐江さんというスクリプターの女性に追加取材をして、加筆していますよね。

春日 女性だからといって、東映京都は容赦なかったというのがよく分かりますし、それに平然とついていく田中さんも素晴らしい。

水道橋 これは春日太一本の流れを知っていればわかるのだけれども、春日さんが女性に取材するのは珍しいですよね。

春日 最近はけっこう多いですよ。ただ、今回の追加取材をして、改めて映画スタッフのお話には物語があると思いました。これは『天才 勝新太郎』の時のこぼれ話なのですが、勝新太郎と北野武の両方に「編集」を教えたという谷口登司夫さんという方がいるんです。実はこの谷口さんと北野監督をつないだ方が、博士さんの所属するオフィス北野のプロデューサーで、その前は勝新太郎の「勝プロ」で働いていたという。

水道橋 その話は春日さんからDMで聞いていて、もともとこういう話、大好きなんです。例えばオフィス北野には上岡龍太郎さんのマネージャーだった方もいたことがあるんです。だから、その人に話を聞いて、本人には直接取材しないんだけど、周りの声で主役の姿を浮き彫りにしていくような、そんな上岡龍太郎の新しい評伝を一時、ボクも書きたくなっちゃうという衝動があって……こういうのを「春日病」と呼んでいるんだけど。

春日 取材をしている時がいちばん楽しいですね。いろいろなお話をうかがっているうちに、あれやこれや本にしたくなってきてしまいます。

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あかんやつら 東映京都撮影所血風録
春日太一・著

定価:本体1,020円+税 発売日:2016年06月10日

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