マンガの神様といえば、言わずと知れた手塚治虫。
彼の偉大なる業績を記念し、その志を継いでマンガ文化の健全な発展に寄与することを目的として、朝日新聞社によって創設されたのが手塚治虫文化賞です。
第19回の同賞において、ほしよりこさんの『逢沢りく』が「マンガ大賞」を受賞しました。これは、2014年に刊行されたマンガ単行本の中で、最高の評価を受けたという意味。ちなみに、マンガ大賞のこれまでの受賞作は、『ドラえもん』『MONSTER』『バガボンド』『キングダム』など、時代を象徴する錚々たる作品ばかり。この傑作群に、『逢沢りく』も名を連ねることになったというわけです。
『逢沢りく』は、『きょうの猫村さん』で老若男女の心を鷲掴みにしたほしさんが発表した長篇コミックです。美しきヒロイン・りくは、蛇口をひねるように、いとも簡単に嘘の涙をこぼすことができる中学生。関西の親戚の家に預けられた彼女に、“あたたかな”試練の数々が襲います。関西弁の世界に違和感を覚え、「私は絶対になじまない」と心に誓ったりくの運命は……。
この名作を描き上げたほしさんをはじめとする各部門の受賞者への同賞贈呈式が、去る5月22日(金)、朝日新聞東京本社の浜離宮朝日小ホールにて開催されました。
授賞に先立って選考経過を発表したのは、選考委員の一人である中条省平・学習院大学教授。『逢沢りく』について、「極めて感受性が強くて、世界を拒否しているような女の子の物語。選考委員の中には、これはドストエフスキーの(『罪と罰』の主人公)ラスコーリニコフに匹敵するほどの人間造形であると述べた方もいたぐらい評価が高かった」と語りました。
授賞の決め手となったのは「ひとりの少女の感性をここまで繊細に描き上げた力、そして今までのマンガにはない独特のペンタッチ」だったとのこと。「特に、その多義性を含んだ柔らかいペンタッチが人間に本来備わるあいまいな部分に呼応するところではないか」というある選考委員の意見は、この作品の魅力を的確に表現しているといえるでしょう。
正賞である鉄腕アトムをモチーフとしたブロンズ像と副賞200万円の目録を受け取ったほしさんは感無量の様子。緊張しつつも「本当にありがとうございます」と挨拶しました。
同時に、『聲の形』で新生賞を受賞した大今良時さん、独自の笑いのセンスにあふれた一連の作品によって短編賞を受けた吉田戦車さん、『小さな恋のものがたり』を完結させた業績で特別賞を得たみつはしちかこさんも、それぞれ喜びを述べました。