アナザーフェイス×警視庁追跡捜査係
驚くべきは、筆の速さだけではない。同じキャラクターを主人公にしたシリーズものを手がける作家は珍しくないが、堂場は3つから4つ、複数のシリーズをつねに併行して書き続けている。
「シリーズものは、それぞれ時代に即したテーマを深掘りすることができるという創作の魅力がありますので、併行して書くことにむずかしさを感じることはありません。例えば、『アナザーフェイス』シリーズのテーマは、家族のあり方を描くということ。妻であり、母である家族の一員を失った父子が、どのようにして新たな家族を築いていくのか、自分自身が答えを探るようにして書き継いでいます。主人公の職業が警察官なので、警察小説と言われることがありますが、事件は二の次で、人間ドラマに軸足をおいて書いているつもり。一方の『警視庁追跡捜査係』シリーズは、事件自体がテーマです。事件は社会をあらわにする鏡であり、“今”という時代を作品に記録するテーマそのものなのです。また、性格や人生哲学の違うふたりの中年刑事が、いがみ合いながら事件の核心に迫るという“バディもの”としての面白さも追求したかった」
「『警視庁追跡捜査係』シリーズは、ふたりの主人公に別々の事件を担当させなければならないので、プロット作りに手こずらされます」
月に一冊という驚異のペースで新作を発表している超多作家の堂場だが、構想、取材、執筆から刊行に至るには、最短でも1年はかかるという。
「ですから、事件を通じて現代社会を描くことをテーマにした警視庁追跡捜査係シリーズを描くには、筆の速さがどうしても求められます。じっくり時間をかけたいのは山々ですが、“今”はどんどん古くなってしまいますからね」
「犯罪の動機の三大要素は、カネ、オンナ、プライドだといいますが、都市で起こる事件はカネの要素が大きく、企業がからんでくることが多い。僕のアンテナに引っかかる事件は、都市を感じさせるものがほとんどです」
小説の執筆は頭脳労働だが、「体力がなければ書き続けることのできない、肉体労働でもある」という。週に3日はジムに通い、筋力トレーニングと有酸素運動をして体力を維持するのが大事な日課だ。現在の執筆スタイルは、脳と筋肉をともに鍛えることで確立したとも言える。