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AIは雇用を奪うか? その時、私たちの暮らしは? 人工知能時代の経済を問う!

AIは雇用を奪うか? その時、私たちの暮らしは? 人工知能時代の経済を問う!

「本の話」編集部

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』 (井上智洋 著)


ジャンル : #ノンフィクション

経済成長は可能なのか?

井上 本書でも強調しているのですが、汎用AIの技術において日本が世界で先行できれば、第四次産業革命を制することが出来ると思います。私のいう“第二の大分岐”で、勝ち組の曲線に乗って経済成長することが可能になります。そのためには、科学技術分野で日本が頑張ることが絶対条件です。それなのに、東大はアジアの大学ランキングで1位から7位まで下がり、危機的な状況です。「20年後にはノーベル賞受賞者がゼロになる」と言う人もいます。

飯田 このままでは、アメリカがまたAI技術のヘゲモニーを握り、日本はそのおこぼれに与るのが精一杯の状況になる。富もすべてアメリカに吸い上げられて、日本はアメリカからベーシックインカムを恵んでもらう立場になるかもしれない。ここをうまく切り抜けなければ、待ち受けているのはディストピアです。

 そのためにはAI研究に突き進むしかないのですが、研究とは「予算をつければ、成果も付いてくる」という議論があります。

井上 だから、日本では、もっと研究者に時間とお金を与える必要があります。特に理系の優秀な研究者が多過ぎる雑務に悲鳴をあげている状態では、日本の科学技術に未来はありません。それに政府が「産業政策」を実施しなくて、直接的な生産活動は市場に任せていれば良いと考えることはできますが、政府が「イノベーション政策」を実施せずに、研究開発を市場に任せているだけでは十分な量の科学技術は生み出されません。民間に任せていても街灯がほとんど立てられないで真っ暗なままなのと一緒です。技術は世の中に広く伝搬していってみんなを豊かにする「公共財」であるという考え方が重要です。研究開発に対する予算を増やさなければ、日本の行き先は街灯のない道と同様に真っ暗です。こういった面でのケチ臭さが、日本をどんどんダメにしている。

飯田 諸外国は科学技術振興予算をどんどん増やしていますからね。

井上 日本の未来はディストピアでしょうか?

飯田 日本の場合は少子高齢化で、働き手が圧倒的に足りなくなっていきますから、逆にAI失業時代には“チャンス”だと考えています。例えば、高度成長期に産業用ロボットで日本が世界一になれたのも、日本国内が人手不足だったからです。必要があったから進歩があった。イギリスで産業革命が起きたのも、当時のイギリスは実質賃金が他の国より高く、人を雇うより機械を買ったほうがコストが安かったからだという説もあります。日本は世界に先駆けて労働力不足に陥るから、そこにAI開発のモチベーションを高めるチャンスがある。ただし、これは“ラストチャンス”です。

井上 AI時代をサバイバルするには、研究開発の競争に乗り遅れないことが重要だ、ということは、いくら強調してもし足りないですね。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)

飯田泰之

1975年生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。元駒澤大学経済学部准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
社会問題から歴史まで、経済学の観点から鋭く分析するスタイルに定評がある。
シノドスHP:http://synodos.jp/


井上智洋(いのうえ・ともひろ)

井上智洋

駒澤大学経済学部講師。慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2015年4月から現職。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。
単著に『新しいJava の教科書』(ソフトバンククリエイティブ)、共著に『リーディングス 政治経済学への数理的アプローチ』(勁草書房)がある。
人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く発言。AI社会論研究会の共同発起人をつとめる。日経新聞、週刊エコノミストなど各種メディアにも寄稿する、いま最も注目される若手経済学者である。

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊
井上智洋・著

定価:本体800円+税 発売日:2016年07月21日

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