2008.06.20 書評

挑発する「27人のすごい議論」

文: 樋口 裕一 (作家・多摩大学教授・「白藍塾」主宰)

『27人のすごい議論』 (『日本の論点』編集部 編)

 私は大学生や大学受験生を対象に小論文の指導をしている。

 今は工業時代ではない。目上の人に指示されたことをそのまま実行する時代ではない。様々な問題に対して自分で分析し、論理的に思索し、それを他者に向かって発信し、議論する時代だ。そんな時代に旧来の作文教育では対応できない。自分の主張をしっかりと示し、その根拠をわかりやすく説明し、相手を説得する能力を養う必要がある。そのためには小論文指導が不可欠だ。

 しかも、発信によって受信の精度も高まる。今の若者は本も新聞も読まない傾向が強い。そのため読解力も社会性も低下しているといわれる。その通りだと思う。だが、無理やり読ませても、情報は頭に残らず、知識は自分のものにならない。自分の意見を発信しようとしてこそ、他者の意見が気になる。それを参考にしたり、反論したりして自分の意見を築いていく。そうするうちに、関心を持って本や新聞を読むようになり、情報が自分のものになっていく。

 ところが、長く続く受験体制のためもあって、最近の若者は高校までに文章を書く訓練をほとんど受けていない。だから、幼稚なことしか考えられず、文章をうまく構成できない。何も指導しないで書かせると、若者のほとんどが一〇〇〇字ほどを段落替えもしないまま、思いつくままにだらだら幼稚なことを書き続ける。だが、しっかりと指導すれば、そんな若者もすぐに力をつけ、ほとんどの受講者がそれなりの文章を書くようになる。社会に関心が広まり、論理的な思考ができるようになる。

 ところが、最後にもう一つ壁がある。発信の意欲を持たない若者が多いことだ。

 言いたいことを持っていたり、独自なものを自分で発見すれば、周囲が押しとどめても自ら書こうとする。だが、言いたいことを持たず、何も発見していない場合、いつまでも教えられたとおりの内容を書くしかない。このような人は試験などでは仕方なしに小論文を書くが、自分から何かを発信しようとしない。世の中に疑問を抱くこともなく、人々が信じているとおりのことを信じて生きようとする。

 そのような若者を少しでも減らし、自分の頭で考えさせるために、私は大学や予備校の授業で、生徒を「挑発する」ことをめざしている。みんなが正しいと思い込んでいることも、別の見方をすれば、正しいとは限らないことを教える。そうすることによって、現実社会に疑いを持ち、問題意識を持ち、自分で問題点を解明しようとし、発信意欲を持ってほしいと思っている。

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27人のすごい議論
『日本の論点』編集部・編

定価:本体950円+税 発売日:2008年06月20日

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