レビュー

物語が動き出す、シリーズ3作目

『黄金の烏』 (阿部智里 著)

文: 阿部 智里

 阿部智里さんの最新作は書き下ろし長編小説。皇太子の妃の座を狙う姫君たちが熾烈な争いを繰り広げる『烏に単は似合わない』、皇太子を巡る朝廷の権力闘争の物語『烏は主を選ばない』に連なるシリーズ3作目だ。

 八咫烏は普段は人間の姿で生活しているが、大きな烏にも変化できる種族。彼らが暮らす世界・山内に「仙人蓋」なる薬物が流通し始める。人間の骨を原料とし、素晴らしい多幸感と引き換えに数回の服用で人の姿に戻れなくなってしまうという危険な薬だ。その流通経路を探るべく、族長一家の皇太子である若宮と元近習の雪哉は旅に出る。辿り着いた最北の地で2人が見たのは、獰猛な大猿が八咫烏を食い散らかし、切り刻んだ亡骸を塩漬けにする凄惨な光景だった――。

「デビューする以前から、八咫烏と大猿の闘いを書きたいと思い続けていました。1作目と2作目は、言ってしまえば前日譚。前の2作を書くことで登場人物が織り成す人間模様や一人ひとりのキャラクターが練り上ったという手ごたえがあり、満を持して『黄金の烏』の執筆に取り掛かりました」

 本作に登場する小梅という少女は貧しい水売りの娘。彼女の父親は貧しさに負け、仲間を裏切り、猿に八咫烏を売ろうとした嫌疑がかけられる。小梅を通して山内に存在するヒエラルキーを描きたかったと阿部さんは語る。

「前2作は貴族階級の宮烏を中心とした物語で、若宮や姫君たちはもちろん、地方出身である近習も宮烏の身分に属しています。山内には商人階級の里烏や農民階級の山烏も暮らしていますが、これまでは作中で彼らを描く機会がなかった。大金欲しさに罪を犯した小梅の父親を若宮の兄が蔑む場面は、宮烏には貧しき民の気持ちが理解できないことを端的に表しています。一口に八咫烏と言っても、1つの存在を表すのではないことを提示したかった」

 デビュー当時は早稲田大学の現役学生だった阿部さんは、この春から同大学の大学院に進学して東洋史を修めている。学業と執筆活動の二足の草鞋で多忙な日々を過ごしているが、相互によい影響を与え合っているそうだ。

「小説を書く際に自分の想像力に頼りきって物語を作り上げていくと、一人よがりになりがちです。『古事記』や『日本書紀』といった古典作品は多くの人に親しまれ、共有できる概念を多分に含んでいる。そこから着想を得て、作中に活かすことはよくあります。執筆活動と大学院での勉強を両立させるのは大変ですが、よい作品が書けるように頑張りたいです」

黄金の烏

阿部智里・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2014年07月23日

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オール讀物 2014年9月号

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