2017.12.07 別冊文藝春秋

『レフトハンド・ブラザーフッド』知念実希人――立ち読み

文: 知念 実希人

電子版16号

「別冊文藝春秋 電子版16号」(文藝春秋 編)

「なんの騒ぎですか?」

 バウンサーが二人、なだれ込んでくる。倒れている男たちを見て、彼らの表情がこわばった。

『これは……、ちょっとまずいかな』

「……ああ」

 岳士は再び身構える。バウンサーたちは岳士より一回りは体格が大きく、さらに腕は丸太のように太かった。

 一対一ならともかく、二人同時に相手にするのはやっかいだ。岳士が細く息を吐いていると、左腕の感覚がどんどん消えていき、やがて肩から先が消えてしまったかのような心地になった。

『相手が二人なら、こっちも二人で戦わないとね』

 海斗の軽口に、岳士は「そうだな」と小声でつぶやく。バウンサーたちに捕まらないようにフットワークを使い、その間に海斗が左を、俺が右を打ち込んでいけば……。

 乾燥した唇を舐めていると、バウンサーたちがじりっと間合いを詰めてきた。

「やめろ!」

 部屋に怒声が響く。いまにも飛び掛かってこようとしていたバウンサーたちの体が大きく震えた。

「けれど、そこの二人が……」

 バウンサーの一人がおずおずとつぶやく。

「こいつらは飲み過ぎで倒れているだけだ。分かったら、さっさと出て行けよ。これから大切な話があるんだ」

 彼らは顔を見合わせて動かない。

「さっさと消えろって言っているだろ!」

 ヒロキが声を荒げながら手を振ると、バウンサーたちは戸惑いがちに部屋から出ていった。

 扉が閉まると同時に、ヒロキが何かを放ってくる。岳士が呆然としていると、左手が勝手に動き、その物体を受け取った。

「カズマ……さんの、スマートフォン?」

 左手が掴んでいるものを見て、岳士は首を捻る。

「お前が持っていろ。それに連絡が入るから」

「連絡ですか?」

「なに狐につままれたような顔してんだよ。『仕事』が入ったときの連絡に決まっているだろ。そのスマホに詳しい時間と場所をメールするから待ってろ。予定では明後日の夜に取引があるから、まずはそれだな」

「それじゃあ、俺を……」

「ああ、お前がカズマの後釜だ。ようこそ、『スネーク』へ」

 ヒロキは唇の端を上げると、芝居じみた口調で言った。

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