2018.01.12 書評

イデオロギーには空爆できない――「イスラム国」のテロが終わらない理由

文: 池上 彰 (ジャーナリスト)

『「イスラム国」はよみがえる』(ロレッタ・ナポリオーニ 著)

 しかし、やがてその夢は潰えます。それに代わる新しい夢。それが「世界イスラム革命」なのです。

 社会主義も資本主義もダメ。そんな八方塞がりを打破してくれそうだと人々に期待を持たせたのが、「アラブの春」でした。チュニジアの独裁政権を倒した民衆の民主化運動は、瞬く間にエジプト、リビアに飛び火。次々に独裁政権を打倒し、遂にシリアにまで到達しました。

 しかし、シリアのアサド政権はしぶとく、ロシアやイランの後押しもあって、容易に倒れることはありません。その間に、リビアは内戦状態となり、エジプトも軍事クーデターで軍事政権に逆戻り。若者たちは、再度絶望することになったのです。

 こうなると、シリアとイラクの双方で反政府活動を展開する「イスラム国」こそが、最後の希望になってきます。

 では、「イスラム国」とは何者なのか。「イスラム国」とは、単なる過激派の集団ではありません。それは、グローバリゼーションと最新のテクノロジーによって成長した「国家」なのだと著者は指摘します。彼らの「近代性と現実主義」が、成功してきた理由です。

 著者は、ここで衝撃的な比喩を持ち出します。「イスラム国」の第一義的な目的は、「スンニ派のムスリムにとって、ユダヤ人にとってのイスラエルとなることである」というのです。「かつての自分たちの土地の権利を現代に取り戻すこと」であり、「たとえいま自分がどこにいるとしても、必ずや守ってくれる強力な宗教国家」になること。この目標は、ユダヤ人がイスラエルを建国した目的とそっくりです。これこそ著者ならではの独自の視点です。

 そして、「イスラム国」を分析すればするほど、この「国家」が、洗練された組織であることがわかってきます。

 著者のロレッタ・ナポリオーニ氏は、文庫版に際し、新たな情報を追加し、よりビビッドにこの組織を分析しています。陥落した「イスラム国」の拠点都市では、シーア派のイラク政府軍による略奪や虐殺が続いているという指摘は、いずれ反動として別のスンニ派過激組織が誕生するであろうことを予感させます。

 とりわけ「ジハード戦士の花嫁募集」は衝撃的です。欧米から戦士の花嫁を誘い出してきたのは、やはり欧米で生まれ育った女性たちであること。彼女らは、欧米で自分を見失い、自分の人生に意味を見出したがっている女性たちを、ソーシャルメディアを使って誘っています。

 こうした動きを空爆などの軍事行動で止めることはできません。それぞれの国で居場所を見出せるようにすることが一番ですが、それは簡単なことではありません。思想は空爆できない。重い言葉ですが、まずはここから出発するしかないのです。

二〇一七年一一月



こちらもおすすめ
書評文庫版あとがき「歴史は繰り返すというけれど……」(2017.09.24)
特集トランプ大統領で世界はどうなる? 日本はどうする?(2016.11.11)
書評この本を手に取ったあなたが、明日の世界を変える女性になるかもしれない(2016.05.16)
書評「歴史を知らない指導者は危険です」。池上彰がイスラム国の起源から説き明かす。(2015.11.29)
書評なぜ安倍首相が「わが軍」と口走る自衛隊が生まれたか――池上彰の戦後史解説(2015.07.19)
「イスラム国」はよみがえるロレッタ・ナポリオーニ 村井章子訳

定価:本体900円+税発売日:2018年01月04日