「夢あり、恋あり、活劇あり。」書き下ろしシリーズ<完結>『柳橋の桜』

吉原や向島などへ行き交う舟が集まる柳橋。神田川と大川が合流する一角に架けられたその橋の両側には船宿が並び、働く人、遊びに行く人で賑わっていた。柳橋の船宿「さがみ」で働く船頭の広吉には一人娘がいた。名前は桜子。三歳で母親が出奔するが、父親から愛情を受けて育ち、母譲りの器量よしと、八歳から始めた棒術の腕前で、街の人気娘に育っていた。夢は父親のような船頭になること。そんな桜子に目を付けた船宿の亭主による「大晦日の趣向」が思わぬ騒動を巻き起こし……。涙あり、恋あり、活劇あり。待望の時代小説新シリーズの幕が開く。

『柳橋の桜』によせて

 新シリーズ『柳橋の桜』四部作の構成を思案しているとき、ふと思いついた。時代小説の雰囲気とは異なる世界を取り込めないかと。鎖国時代に異国との交流を持った港町を頭のなかで散策していると、なぜか一枚の異人画家の絵がふわりと浮かんだ。すると不思議なもので絵が絵を呼び、新シリーズを通底するモティーフになった。そして絵が作者をなぜかオランダへ招いた。四年ぶりの海外旅行が老いた私の想像力を刺激した。四部作『柳橋の桜』が誕生した。

佐伯泰英

おもな登場人物

桜子
小さいころから船頭の父の猪牙舟にのせてもらい、舟好きが高じて船頭になることを夢見る。背が高いため「ひょろっぺ桜子」とも呼ばれている。八歳から始めた棒術は道場でも指折りの腕前。
広吉
桜子の父。船宿さがみの船頭頭。桜子が三歳のときに妻のお宗が出奔。男手ひとつで桜子を育てる。
猪之助
船宿さがみの亭主。妻は小春。
大河内立秋
薬研堀にある香取流棒術大河内道場の道場主。直参旗本大河内家の隠居で、大先生と呼ばれている。
大河内小龍太
道場主の孫で次男坊。桜子の指南役。香取流棒術に加え香取神道流剣術の目録会得者。
お琴(横山琴女)
桜子の幼馴染みで親友。父は米沢町で寺子屋を営む横山向兵衛、母は久米子。物知りで読み書きを得意とし、寺子屋でも教えている。背が低いので「ちびっぺお琴」と呼ばれるときもある。
江ノ浦屋彦左衛門
日本橋魚河岸の老舗江ノ浦屋の五代目。桜子とは不思議な縁で結ばれている。
相良文吉
お琴の従兄。刀の研師にして鑑定家として知られる相良兼左衛門泰道の息子。祖父や父の仕事を見ていて刀が好きになり、手入れや鑑定を手がける。
小田切直年
北町奉行所奉行。
柳橋の桜地図
柳橋の桜地図