著者 三浦しをんプロフィール
PROFILE
1976年東京生まれ。2000年「格闘する者に〇」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で第135回直木賞を受賞。12年「舟を編む」で本屋大賞を受賞。小説作品に「月魚」「私が語りはじめた彼は」「むかしのはなし」「風が強く吹いている」「きみはポラリス」「仏果を得ず」「光」「神去なあなあ夜話」「政と源」など、エッセイ集に「三四郎はそれから門を出た」「あやつられ文楽鑑賞」「ビロウな話で恐縮です日記」「お友だちからお願いします」など、著書多数。
interview
――新刊『まほろ駅前狂騒曲』は、直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』、そして『まほろ駅前番外地』に続くシリーズ3作目です。続編は最初から考えていたのですか?
三浦 いえ、1作目の『便利軒』を書いた時は、シリーズ化はあまり考えていませんでした。2作目の『まほろ駅前番外地』を書いているときに「週刊文春」連載のお話を頂いたので、次作につながる伏線を『番外地』の中で張るよう意識しました。週刊誌連載では毎回締切ぎりぎりになってしまって、本当に大変でした。でも折角の週刊誌なんだから、原稿のストックを作るより、毎週書いたほうがいいと思ったんです。そうじゃないと月刊誌に書くのと同じになってしまいますから。次がどうなるか自分でもわからないまま書くのもいいんじゃないかと思ってやってみたんですが、辛かったですね(笑)。
――今回は、多田が4歳の女の子、実は行天の実の娘「はる」を預かることになります。多田は子供を亡くした過去があり、行天も理由は明かされていませんが、子供を大の苦手としている。この2人と「はる」が一緒にいてはたして大丈夫なのか、はらはらしました。
三浦 私も3人の関係がどうなるかわからないまま書いていました。でも一作目の『多田便利軒』で、多田は自分で自分の心に、ある意味救済のような落とし前をつけています。じゃあ行天にとって、自分の心と向き合えたと思えることは何なのか――それは苦手な子供とうまく向き合えたときなんじゃないかと思ったんです。遺伝子的にも自分の娘である「はる」と行天がちゃんと向き合えるように今回「はる」を登場させたのですが、結果的にこのような展開になりました。
――「はる」と行天が2人だけで向き合う一方で、多田が新しい恋に踏み出す、ある夜のシーンがあります。それぞれの新しい関係の始まりが対照的に描かれ、とても感動的でした。
三浦 多田がちょっといい気になって朝帰りをするシーンですね(笑)。あのシーンは特に意識的にパラレルに描こうとしたわけではなくて、多田が新しい人間関係に踏み出せるのか、行天が子供時代の心の傷を克服できるのか、と考えながら書いてきたことの偶然の結果です。