少年のまっすぐな憤怒が眩しい<プリン三部作>と繊細にして骨のある30代女子のゆれる日々を描いた中編二篇所収。
本ページでは、作品の一部とあらすじを紹介いたします。

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落合でシェアハウスする藤子、ヨッシ、眞由。
三十代なかば、震災後三人三様にもつれていく仕事、恋愛、友情。
雨が降るたびに、水が漏る箇所をひとつづつ潰していこうとその家を訪れる小西老人の変わらない姿に藤子は心安らぐのだが――。
2011年4月、東京に住む彼女たちが直面したシリアスでミクロな試練の日々。

音楽業界から転身、郷里ゆかりの地で漁師になった長尾。彼に伴われて移り住んだ紗江はそこで「二号丸」と呼ばれ、地域のコミュニティから拒まれてしまう。採譜の仕事と長尾しか存在しないかのような生活に、東京の長尾の妻からかかってくる長距離電話が不思議な親密さをそなえた歪みをもたらし、二人はある決定的な日を迎える。

給食のプリンがひとつ足りず、少年は担任に犯人あつかいされてしまう。
教室を飛び出し、階段を駆けおりた先に、いつもの酒臭い用務員のじいさんがいた。担任の「目上の人間を敬え」という言葉は、ほんとうに有効なのか。少年の怒りが痛快な一篇。

両親の仲が妙な調子になって二年。ささいなきっかけで父親は少年に説教をまくしたてはじめるが、彼はもう大人の都合でいちゃもんをつけられるほど幼くはない。あこがれの「アイロン師」とは誰のことか――少年を包む夕景が胸に迫る。

原宿駅前で彼女と待ち合わせ、ぶらついた後入った裏通りの古風な喫茶店。君のグローバリズムへの怒りは、いつしか彼女の胸元にまで飛び火していく。笑いと怒りと批評精神の幸福な結合を味わえる好篇。

森 絵都(もり・えと)

1968年東京都生れ。早稲田大学卒業。1990年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。同作品で椋鳩十児童文学賞を受賞。『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。『アーモンド入りチョコレートのワルツ』で路傍の石文学賞を、『つきのふね』で野間児童文芸賞を、『カラフル』で産経児童出版文化賞を受賞。『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞を受賞。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞。『いつかパラソルの下で』『架空の球を追う』『ラン』『この女』ほかエッセイ、児童書、絵本など幅広く活躍する。

平体文枝(ひらたい・ふみえ)

石川県生れ。1989年筑波大学芸術専門学群美術専攻卒業、1994年第1回VOCA展に最年少26才で参加。2002年から2003年には文化庁新進芸術家海外研修員としてベルギーに1年留学。帰国後、現在は東京を拠点に精力的に活動している。主にオイルとオイルスティックを使って制作し、柔らかな色彩と豊かなグラデーション、オイルならではの絵肌(マチエール)の美しさで知られる。
F U M I E H I R A T A I(公式ホームページ)