大島真寿美・著『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』

お知らせ

2021.09.15
「浄瑠璃に魅せられた人々の悲喜交々を描いた群像劇――『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(大島 真寿美)」が公開されました
2021.08.23
「泣くわ笑うわ喋るわ喋るわ、喜怒哀楽満載の道頓堀ワンダーランド」が公開されました
2021.08.18
<ニュース>第9回「大阪ほんま本大賞」に大島真寿美さんの『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』が決定!
2021.08.03
8月4日に単行本『結 妹背山婦女庭訓 波模様』が、8月3日に文庫『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』が発売されます
2021.07.26
「大島真寿美さんの直木賞受賞作『渦』&新刊『結』の世界がスマホからでもリアルに体験できる」が公開されました
2021.06.21
「大島真寿美さんが小説をうまく書きたい高校生に伝えたかった「とても大事なこと」。」が公開されました
2021.06.14
「第7回高校生直木賞受賞『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』大島真寿美さんトークショー」が公開されました
2020.08.23
<ニュース>第7回「高校生直木賞」の受賞作に選ばれました

作品紹介 渦

虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた──

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──

作品紹介 結

江戸時代も半ばを過ぎた道頓堀には芝居小屋がひしめき合っていた。

造り酒屋の倅の平三郎が、うっかり道頓堀の芝居小屋に足を踏み入れたのは、二十歳そこそこの頃だった。妹背山婦女庭訓を観たことがきっかけで平三郎は操浄瑠璃の世界にのめりこんでいく。

娼家の跡取り息子でありながら浄瑠璃作者になった徳蔵の情熱や近松半二の娘のおきみからあふれでる才気。才能がありながら浄瑠璃作者としてくすぶっている余七は江戸を目指し、近松柳は大評判の「絵本太閤記」を浄瑠璃にしようと奮闘する……。

近頃は歌舞伎芝居に押され気味ではあるものの、人形浄瑠璃は人を惹きつけて離さない。

「道頓堀には、お人形さんがいてこそ、や」という思いが、そこかしこに満ち満ちていた。

人形浄瑠璃に魅せられ、人形浄瑠璃のために生きた人々の喜怒哀楽と浮き沈み、せわしなくも愛しい人間模様をいきいきと描く群像時代小説。

主な登場人物

松屋平三郎
造り酒屋の倅だが、操浄瑠璃に入れ込む。趣味が昂じて耳鳥斎の名前で浮世絵師としても活躍する。「松へ」とも呼ばれる。

おきみ
近松半二の娘。根っからの芝居好き。徳蔵の書く浄瑠璃の詞章はいまひとつだと思っている。

徳蔵
娼家大桝屋の跡取り息子。近松半二に師事。おきみと行動を共にすることが多い。奈河亀輔に出会ったことで歌舞伎芝居に足を踏み入れることになる。

菅専助
近松半二とともに活躍した浄瑠璃作者。一度隠居したが、半二が死んだことをきっかけにまた浄瑠璃の世界に戻ってくる。

余七
武家崩れの浄瑠璃作者。才能はあるが、人間関係に難があり何をやっても長続きしない。のちの十返舎一九。

柳太郎
もともとは餝職人だったが、浄瑠璃作者に転じる。菅専助の添削を受け『彫刻左小刀』を書き上げる。『絵本太功記』の作者。

妹背山婦女庭訓魂結びとは?

『妹背山婦女庭訓』に登場するお三輪(写真提供:国立劇場)

歌舞伎の隆盛に押されていた、浄瑠璃の本拠地・竹本座を連日大入り満員にしたという、近松半二らの伝説の大ヒット作品。飛鳥の改新をモチーフとした時代王朝もので、帝位を奪おうとする謀反人の蘇我入鹿を倒すべく、中大兄皇子(後の天智天皇)のため力を尽くす藤原鎌足&淡海親子とその一派の活躍を描く。

雛鳥・久我之助(写真提供:国立劇場)

特に入鹿の横暴によって久我之助と雛鳥の恋人同士が命を落とす「ロミオとジュリエット」のような悲劇は、満開の吉野山の桜を背景にした「妹山背山の段」(歌舞伎では「吉野川の場」)として有名。さらに後半は求馬(実は藤原淡海)という男性に恋をした、橘姫(蘇我入鹿の妹)と酒屋のお三輪(おみわ)の三角関係を舞踊化した「道行恋苧環」、入鹿を倒すためにお三輪が犠牲となる「金殿の段」(歌舞伎では「三笠山御殿の場」)など、スペクタクルに満ちた舞台になっている。

妹山背山舞台写真(写真提供:国立劇場)

近松半二

江戸時代に大坂道頓堀で「竹本座」を興し、人形浄瑠璃(現在の文楽)の一時代を築いた近松門左衛門。その死後、儒学者の次男として享保10年(1725年)生まれた穂積成章は、二代目竹田出雲のもとで竹本座の座付き作者となり、門左衛門に私淑して「近松半二」と名乗るようになった。宝暦元年(1751年)『役行者大峰桜』の序を書いてデビュー、39歳で一人前の立作者となる。『本朝廿四孝』『傾城阿波の鳴門』、『妹背山婦女庭訓』『新版歌祭文』など、現在も文楽や歌舞伎で上演されるヒット作品を次々と発表し、人形浄瑠璃の中興の祖となった。遺作は天明3年(1783年)初演の『伊賀越道中双六』。

著者紹介

著者近影
©鈴木七絵

大島真寿美

おおしま・ますみ
1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞。2011年刊行の『ピエタ』(ポプラ文庫)は第9回本屋大賞第3位。『あなたの本当の人生は』(文春文庫)は2014年第152回直木賞の候補作に。映画化された『チョコリエッタ』(角川文庫)、NHKでドラマ化された『虹色天気雨』『ビターシュガー』(ともに小学館文庫)、『戦友の恋』(角川文庫)、『ツタよ、ツタ』(小学館文庫)、『モモコとうさぎ』(角川文庫)など著書多数。