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六代 豊竹呂太夫×大島真寿美〈文楽〉というワンダーランド#前編

文: 「オール讀物」編集部

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』刊行記念

現代でもなお数多の人気作品が受け継がれている、江戸時代の人形浄瑠璃作者・近松半二。その生涯と創作の源流に迫る小説の執筆にあたり、作者が師匠と仰いだのは、芸歴五十年以上、国内外で高い評価を受ける現役の太夫!知れば知るほど魅力的な文楽の世界へようこそ――。

大島 私が初めて呂太夫師匠にお目にかかったのは、昨年四月、義太夫教室の一日体験でした。江戸時代の人形浄瑠璃作者・近松半二を主人公にした小説『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』の取材のためだったんですが、もう本当に楽しくて!

呂太夫 ワンダーランドだったでしょう(笑)。人間は声を出すと、男女の性別、職業も年齢も関係なくなってくるんです。みんな小学校の生徒みたいなもので、僕は小学校の先生ですよ。発声練習からはじめて、心をひとつにしていくと、大声を出す恥ずかしさもだんだんなくなってくるんです。

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美 著)

大島 おっしゃる通り、取材ということはすっかり忘れて、本気で声をだしているうちに、すっかりはまってしまいました。以来、毎月お稽古に通わせてもらっています。

呂太夫 教室は二十年近く続いていますが、生徒として残っていく人は、何かを持っているというか、素質がなきゃ続きません。まあ、異色な人が結構多くて――ご自身では「変わりもんでない」って言われてますけど(笑)、とにかく皆さん魅力のある方ばかりです。

大島 そうですね。最初に伺ったときは、ちょうど連載五話目の「雪月花」を書き終えて、次を書いているところでした。その話を聞いた師匠が「読みたい」ということで、すぐ初回の「硯」からまとめてお送りしました。

呂太夫 びっくりしましたよ。僕らは近松半二って、作品や解説書しか読まないでしょう。それが急に出てきてふつうに喋っている。当時の大坂・道頓堀はブロードウェイみたいに、芝居が非常に盛んだったんですけど、その景色がパノラマみたいに広がっていて、有名な歌舞伎作者の並木正三や人形遣いの吉田文三郎も出てくるし、もう仰天しました。「半二と正三は酒飲みながらこんな話しとったんか!?」と、読みながらホンマに面白くて、面白くてね。こんな会話をようでっちあげるな、と思いながら(笑)、すごい説得力があって、だんだん自分も半二と友達のような気持になっていきました。

大島 並木正三も半二も同じ時期に活躍していて、年齢も近いのは事実ですけど、本当に会話していたかは分からないんです。もう嘘八百で見てきたように紡ぎだしました(笑)。でも、ずっと私の中ではふたりの声が聞こえていて、半二と正三の仲がいいのは事実だと思って書いていました。

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大島真寿美

定価:本体1,850円+税発売日:2019年03月11日


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