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全国書店員さんより大島真寿美さん『渦』への感想

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』刊行記念

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美 著)

内田剛さん(三省堂書店有楽町店)

 いやー、これは面白い! まさに生き物です。ミュージックが“音楽”であるように、この小説も“文楽”(ぶんらく)を描きながら、文学を堪能できる“文楽”(ぶんがく)ですね。
 
 圧巻のテンポに心地よいリズム、全編から生命感があふれ出し躍動し続ける物語を思う存分に楽しませていただきました。率直に言って、小説にここまで出来るのかという驚きで一杯です。時代の空気も濃密に再現され、独特の‘芸の道’に生涯を懸けたその真髄がものの見事に伝わり凄みさえも感じました。
 
 人間の奥底から芸術が生み出される様が本当にリアル。さざ波がいつしか大きなうねりとなって、まさしく壮大な「渦」に呑み込まれ……全身で体感できるこの文学世界は大島さんにしか到達できない境地。新たな代表作の誕生に心から拍手!
 
 この「渦」に巻き込まれてとても幸せな気分……早く売りたくウズウズしています!
 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

久田かおりさん(精文館書店中島新町店)

 文楽、人形浄瑠璃、操浄瑠璃、漠然と「知ってはいる」その世界。そういえば確か金沢かどこかに旅行に行ったときに、一人で演じる人形浄瑠璃を見た覚えが……歌舞伎より歴史が古く世界文化遺産にもなっている、日本古来の演芸。それくらいの乏しい知識で読み始めたこの物語。

 いやぁ、もうどっぷりと浸ってしまいました、なんとも深く魅力的なこの世界に。

 浄瑠璃に魅せられた一人の男の、人生の物語であると同時に、これは「おんなを小さな世界に閉じ込め縛り付ける世間」や「おとこの身勝手さと生きざま」や「芸に魅せられる恐ろしさとその奥深さ」も描いている。そういう部分がこの物語の奥行きとなっている。ここだど取り上げるともっと暗く重くじっとりとした物語になりそうなのに、なのに、なのに、どうだろう、この軽やかさは。

 会話や物語の展開のテンポの良さ、人間関係の深さとその強さは、もうなんというか、大島節とでも言おうか。大島さん自身が、楽しんで書いているのがよーくわかる。だから読んでいる方も、ものすごく楽しい。わくわくするのだ。

 道頓堀の浄瑠璃作者、近松半二が歌舞伎よりも上をいく物語を、今よりもっと素晴らしい物語を、と苦悩する姿も、なんというか、悲壮感がなくて楽しそうにみえる。いや、みんな命を削って物語をつむいでいるのだろうけど、それでもなんだろう、自分も同じようにその仲間に入りたくなってしまう。貧乏長屋に暮らしながら、あーだこーだと頭突き合わせて練りに練りたいね。

 いや、でも絶対に無理だ無理だ。物語ってそんなに簡単に生まれるものじゃない。物語を紡ぎ出すのは誰にでもできることじゃない。なんだろう、どうやってどこから物語は生まれてくるのだろう。

 近松半二が浄瑠璃の傑作「妹背山婦女庭訓」を紡ぎ出す途中で現れた「お三輪」の存在って、もしかすると大島さん自身にもあるものなんじゃないか、って気がする。自分の中にある「誰か」が自分とは別の視線でもって物語を紡ぎ出す。そんな経験が大島さんにもあるんじゃないんだろうか。なんて思いながら読むとわくわく感も一層増してくる。

 はぁ、しかしなんだろう、この読後感の良さは。とってもいい物語を体験した、そんな気になる。満足感に浸れる一冊でした。

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大島真寿美

定価:本体1,850円+税発売日:2019年03月11日


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