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【第161回直木三十五賞候補作】名作〈妹背山〉の深遠に迫る──『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美 著)

「オール讀物」編集部

『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美 著)

 芝居小屋が立ち並ぶ江戸時代の大坂・道頓堀。本書はここで生まれ育ち、やがて浄瑠璃作者となった近松半二の生涯を描き、その創作の源流と物語の本質にぐいぐいと迫っていく。

「もともとは歌舞伎が好きで、昔からよく観ていました。それを知る編集者に『歌舞伎を題材に小説を書いてみては?』と、以前から言われていたんですが、いくら好きでも小説にするのは、とても無理だと思っていました」

 こう話す著者の大島さんにとって、転機は二〇一五年春、平成中村座浅草公演にかけられた『妹背山婦女庭訓』だった。七之助が演じた町娘・お三輪を観て、「これなら書けるかも!」と頭の中に何かが閃いたのだという。

「でも、調べ始めたらすぐ『妹背山』は歌舞伎ではなく、もともと人形浄瑠璃=文楽のために書かれた作品だということに気がつきました。そこから猛勉強がはじまったんですが、取材相手の技芸員や専門家の方々は、最初はこれが小説になるんだろうかと半信半疑な様子でしたよね」

 幸運な偶然にも助けられた。一五年秋、自身にとって初の文楽体験となった東京の国立劇場では、当代一と評判の人形遣い・桐竹勘十郎さんが操るお三輪に心を奪われ、さらに翌年、大阪で通し狂言の『妹背山婦女庭訓』を観ることができたのだ。

「短期間にどんどん『妹背山』を観ることができたのは、半二の導きだった気がします。残されている資料はそれほど多くはないですけれど、本人の随筆や関係者の日記、文楽や歌舞伎の年表を見ていくと、さまざまな事実も浮かび上がってきました」

 近松門左衛門が興した人形浄瑠璃は、半二の時代は歌舞伎に押されてどんどん下火になっていく。それに抗おうとする人形遣いや小屋主、そして誰よりも道頓堀の人形浄瑠璃を愛する男が、起死回生を賭けた『妹背山』はいかに誕生したのか――大化の改新という歴史を基調にしつつ、大和地方の伝承、当時の女性の流行など、多くの虚実が渾然一体となった物語。その深遠さはおよそ二百五十年の時を経ても、まったく色あせない。

「執筆中、六代豊竹呂太夫さんの下で何と義太夫を習いはじめてしまったんです(笑)。この五月には奇跡的なタイミングで、東京でも『妹背山』の通し公演があり、もちろん足を運びましたが、終幕の『金殿の段』の太夫をお師匠さまが務められ、勘十郎さんが操るお三輪には、再び魂を持っていかれました。まだ脳内は江戸時代にいるような感じ。浄瑠璃を巡る人々の物語をまた書きたいですね」


おおしまますみ 一九六二年愛知県生まれ。九二年「春の手品師」で文學界新人賞。二〇一二年『ピエタ』が本屋大賞第三位。一四年『あなたの本当の人生は』が直木賞候補。著書多数。

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