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【冒頭立ち読み】『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)#1

文: 古市 憲寿

平成最後の日と令和最初の日の2回にわけて『平成くん、さようなら』の冒頭をお届けします。

『平成くん、さようなら』(古市憲寿 著)

 彼から安楽死を考えていると打ち明けられたのは、私がアマゾンで女性用バイブレーターのカスタマーレビューを読んでいる時だった。デンマークブランドが開発した高級バイブレーターのページには、投稿者「吉高」さんによる「すべての初心者へ」と題された長文が掲載されていた。その文章を全て信じるのならば、「吉高」さんは処女であり、今まで自分で「指を1本しかいれたことがなかった」が、このバイブレーターで練習した結果、穏やかで快適な自慰行為ができるようになったという。「吉高」さんは、このバイブレーターのおかげで、彼氏を欲しいという気持ちが完全に消え、人生に自信が持てるようになったとも記している。私は処女でもなかったし、穏やかなバイブレーターが欲しいわけでもなかったが、それほど「吉高」さんに自信を与えた製品ならばカートに入れてもいいのではないかと思い始めていた。

 性行為を嫌う彼のせいで、私には定期的に女性用のセックストイを買う習慣がある。ベッドルームには、イロハ、スヴァコム、フィエラなど、数十のローターやバイブレーターが並べられていた。最近のお気に入りはウーマナイザーだ。振動だけではなく、吸引によっても女性をオーガズムに導くドイツ発の商品で、角度や強度も細かく調整することができる。バイブレーターやローターに慣れてしまったらウーマナイザー一択だと友人から勧められたのだが、期待以上の製品だった。しかしウーマナイザーにも飽き始めてしまった今、新しいセックストイを探していたのだ。

平成くん、さようなら古市憲寿

定価:本体1,400円+税発売日:2018年11月09日


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