2019年5月には文楽『妹背山婦女庭訓』の通し上演が15年ぶりに東京の国立劇場で行われる!
小説『渦』を読んで、生で観られる奇跡のチャンスが目前に――
婦女庭訓の主役は町娘
呂太夫 大島さんももうちょっとしたら、『婦女庭訓』の「道行恋苧環」の〈思い乱るる薄蔭 それとお三輪は走りより〉のところから、ちょっとだけ語ってみたらいいですよ。半二の世界観をさらに感じられると思います。
大島 (きっぱりと)語りたいです!
呂太夫 この場面は女性ふたりのイケメンの取り合いで、非常に分かりやすいですよね。お三輪ともうひとりの橘姫(蘇我入鹿の妹)、さらに求馬(実は藤原鎌足の息子・藤原淡海)の三人をそれぞれ語ることになります。
大島 相手の身分が高いのも知らず、お三輪ちゃんが〈女庭訓しつけ方 よう見やしゃんせ エエ嗜みなされ 女中様〉というところを語ってみたいというのは、お稽古をはじめたときからの願望なんですけど、まだまだ実現するまでには遠そうです。
呂太夫 『妹背山婦女庭訓』は、ロミオとジュリエットのような悲恋物語「妹山背山の段」(歌舞伎では「吉野川」)が有名ですけど、全体の主人公はお三輪であり、僕もこれはお三輪のために書かれたものだと思います。
大島 ここは近松門左衛門と半二の物語の作り方が違うところだと思うんですが、半二の作品の方が何かとんでもない発想の枠組みが作られて、それが全体を通しての面白さへとつながっていくというか……。
呂太夫 確かに入鹿討伐というひとつの大目標に向かって、求馬や橘姫だけでなく、蘇我家に仕える官女、通りがかった豆腐買まで全員が、お三輪をがんじがらめにして、追い詰めていくんですよね。
大島 入鹿を滅ぼすためには、嫉妬や恨みが現れた「疑着の相」のある若い女性の血が必要ということなんですけど、「疑着の相」っていうとんでもない言葉ひとつとっても、半二の大いなる発明ですよ。
呂太夫 門左衛門が人間の二面性を追求したとすれば、半二はいろんな人の性格や状況を使ってお芝居を作っていますね。お三輪という名もない町娘を主役に大抜擢し、それがだんだんと追い詰められて殺されてしまうんですけど、お三輪は喜んで死んでいく。
大島 愛しい求馬が憎き入鹿を倒すため、自分がお役に立てたということで、確かに最期は喜んでいます。
呂太夫 いまの時代で考えたら理不尽極まりないですが、その時代はまだ現世よりも来世志向というのがありますし、お三輪は本当に幸せに亡くなった。半二が大化の改新を下敷きに、お三輪を主役にしたのは大成功ですよ。
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