瀬尾まいこ・著『そして、バトンは渡された』
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私には五人の父と母がいる。その全員を大好きだ。
高校二年生の森宮優子。
生まれた時は水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っている。
名付けた人物は近くにいないから、どういう思いでつけられた名前かはわからない。
継父継母がころころ変わるが、血の繋がっていない人ばかり。
「バトン」のようにして様々な両親の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せだった。
出来上がった時に、きっとこんな気持ちが書きたかったんだと思うことができた、自分でも大好きな作品です。皆さんに、読んでいただけたらうれしいです。
- 読んだ後に感じる幸せな余韻もきっとひとつのバトンだと思います。主人公は事情により名字が4回も変わる家庭で育っていきます。が、悲しい物語ではありません。彼女は本当に本当に愛されて育っていきます。バトンが渡される瞬間、自分もそこにいるかのような錯覚がありました。そして次に自分にも訪れたその瞬間を思い出しました。手と手がつながれていく光景、新しい幸せの始まり…。始まりだけど今までのことがすべて報われたと自信に変わった瞬間。
この物語を通して、家族や愛情というものは血縁に限られるものだけではないんだと、何気ない会話や思いあう気持ちの積み重ねだと思うことが出来ました。だからこそ、そのバトンを大事につなげていくことが大事だと思います。今を大切にしたいと思わせてくれます。
本当に最高の幸せが満ちている物語です。
(福井県・安部書店エルパ店・石田美香さん) - 最近、幾度となく報じられる家族内での事件。
親子ってなんだろう、家族ってなんだろうと考えずにはいられない今こそ読むべき一冊ではないかと思う。
(埼玉県・須原屋外商部・伴苗弘樹さん) - 僕は“家族の物語”が好きだ。
作品を読みながら、自然と「あぁ、この本は読んで貰いたいな」と思えた。
その時点で心は決まったようなものだ。
今回は、この作品を推します。
「困った。全然不幸ではないのだ。」
という書き出しで物語は始まる。
父が三人、母が二人いるという。「そんなワケないでしょ」と思ってしまった(先入観とは恐ろしい)。ところが、読み進めると、なるほど、優子も自分のコトが見えていなかっただけなのだ。
個性豊かな親たちは、誰もが皆、憎めない。情に篤い人たちばかりだった。
さり気なくイイ事を言う。
本作の圧倒的な輝きは、四百字ではとても紹介しきれないので、是非読んで欲しい。
常套句かも知れないけれど「読後、タイトルの意味に気付いたときに涙が…」というのは、この作品の為にある気がした。
「笑顔で歩いてくださいね」の一言は、涙でぐしゃぐしゃになっていた僕にも笑顔をくれた。とても素敵なセリフだった。
(東京都・三省堂書店 神保町本店・竹村真志さん) - 主人公は特殊な家庭環境にありますが、なにか劇的なことが起こるわけでもなく、日常が流れていきます。
血の繋がらない親との、幼い頃から巣立つまでの物語。
最後の一章がとても心に響いて、タイトルの意味がわかったときに涙が流れました。
(北海道・コーチャンフォーグループ運動公園通り店・山田倫子さん) - 読了後、誰かに抱きしめられているかのような温かい思いになりました。
この思い(バトン)を次の人に繋げるのは私たちの仕事なのだと感じました。
(神奈川県・丸善 ラゾーナ川崎店・竹田光一郎さん) - ずっと胸に刺さったままの言葉があります。
「あなたは愛されないで育ったから…」
その言葉を思い出すと、今でも涙が溢れてしまいます。
それは、私を愛し育ててくれた人達を否定された、と感じた瞬間だったから。
ごく一般的な家庭環境ではない、ということで、どうしてもレッテルを貼られることはあるかもしれません。
でも、家族の形態が色々変わりながらも、みんなから愛情をかけて育ててもらった。そんな環境にある人だっているんだ。私にとってこの作品は、そんな風に肯定してくれる救いの一冊でした。
結婚という人生の新たなスタート地点まで、ひたすら善人にリレーされ、渡されるバトン。
血の繋がりに関係なく、注がれる無償の愛。
読み終わって、自分の歩いたバージンロードを思い出しました。
いろんな記憶もあります。様々な境遇で育ったのは事実です。だけど胸を張ってこう言いたい。
「あたしは愛されて育った」
その強さを私はこの作品からもらいました。
(青森県・宮脇書店 青森店・大竹真奈美さん) - 大人の都合で、親が何度も変わった優子。ともすれば「可哀想な子ども」になってしまった優子を愛情という名のバトンが奇跡的に守り続ける。
こんな家族ありえないって切り捨てることは簡単だけれど、そうではない視点から物語を見つめたい。
私だって、誰だって、いのちのバトンを受け継いで生きているのだ。血のつながりがあるとか、ないかとはいのちの前ではきっと関係がないのだろう。
私を取り巻く、愛や奇跡を教えてくれる一冊。
(岡山県・本の森セルバ岡山店・横田かおりさん)
瀬尾まいこ
1974(昭和49)年、大阪府生れ。大谷女子大学国文科卒。2001(平成13)年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本『卵の緒』で作家デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、2008年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞する。他の作品に『図書館の神様』『優しい音楽』『温室デイズ』『僕の明日を照らして』『おしまいのデート』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『君が夏を走らせる』など多数。