◎それは奇跡か、それとも病か?◎
かつて大学で脳を研究し、科学ジャーナリストとなった著者。彼女の趣味は「人とは違う
脳」を持った人々について書かれた医学論文を収集し、読み漁ること。だが、論文を読む
だけでは、患者の人となりは全く見えてこない。ある日、十年間集め続けた論文の山の前
で彼女は思った。「世界中で普通の人々に奇妙な事が起こっている。彼らはどんな生活を
しているのだろう?」――それが、「奇妙な脳」の持ち主たちを巡る旅の始まりだった。
【目次】
■序 章 「奇妙な脳」を探す旅へ出よう
大学で脳を研究していた私は、卒業後にある衝撃的な論文と出会う。この世にはどんな命
令にも必ず従ってしまう“ジャンパー”と呼ばれる人々がいるというのだ。彼らの脳では
一体何が起きているのか。それがこの旅の始まりだった。
■第1章 完璧な記憶を操る
──過去を一日も忘れない“完全記憶者”ボブ
これまでの人生の全ての日を覚えている。ごくまれに、そんな記憶力を持つ人々がいる。
その秘密を探るべく、私はボブを訪ねた。彼に最も古い記憶を尋ねると、なんと生後九
ヶ月の時の記憶があると言う。そんなことはありえるのか。
■第2章 脳内地図の喪失
──自宅で道に迷う“究極の方向音痴”シャロン
方向感覚は脳が生み出す最も高度な能力の一つだ。では、それを失うと人はどうなるのか。
それを教えてくれるのがシャロンだ。彼女は自宅のトイレからキッチンへ行こうとして迷
子になる。脳内ではどんなエラーが起きているのか。
■第3章 オーラが見える男
──鮮やかな色彩を知る“色盲の共感覚者”ルーベン
特定の数字に色を見たり、特定の音で味を感じる。こうした共感覚は四%の人に備わって
いるとされる。中には特殊なものもあり、ルーベンは出会う人の多くにカラフルなオーラ
が見えるという。だが不思議なことに、彼は色盲なのだ。
■第4章 何が性格を決めるのか?
──一夜で人格が入れ替わった“元詐欺師の聖人”トミー
「ドラッグ、窃盗、けんか。全部やったよ」と過去を振り返るトミーは、ある夜を境に虫
も殺せない穏やかな性格へと激変し、家族を戸惑わせた。人の性格は脳が決める。その鍵
は左脳と右脳ではなく、上脳と下脳のバランスにあった。
■第5章 脳内iPodが止まらない
──“幻聴を聞く絶対音感保持者”シルビア
幻覚は精神疾患の症状だとされることが多いが、実は誰しもピンポン玉とヘッドフォンを
使えば幻覚を体験できる。なぜ脳は幻覚を生み出すのか。絶え間ない幻聴に悩まされてい
るシルビアの脳をスキャンすると、答えが見えてきた。
■第6章 狼化妄想症という病
──発作と戦う“トラに変身する男”マター
自分が動物に変身したと思い込む狼化妄想症。非常に珍しいその患者、マターに会うため、
私はUAEへ飛んだ。医師立ち会いのもとインタビューを始めるも、彼の様子が急変。低いう
なり声をあげ、「全員を襲いたい」と言い出した。
■第7章 この記憶も身体も私じゃない
──孤独を生きる“離人症のママ”ルイーズ
身体から抜け出たように感じ全ての現実感を失う。一時的にそうした離人症状を経験する
人は多いが、ルイーズは何十年もその感覚の中で生きている。彼女の脳の謎を解くには、
意外にも「人工心臓を入れた男」の研究がヒントになる。
■第8章 ある日、自分がゾンビになったら
──“三年間の「死」から生還した中年”グラハム
「私は死んでいる」ある出来事を機に脳がなくなったと感じたグラハムは、そう訴えて周
囲を当惑させた。彼を検査した医師らには衝撃が走る。起きて生活をしているのに、脳の
活動が著しく低下し、ほとんど昏睡状態にあったのだ。
■第9章 人の痛みを肌で感じる
──“他者の触覚とシンクロする医師”ジョエル
他人が経験した触覚や感情を、自分の身体でも感じてしまう。そんなSFのような人々が実
在する。医師として働くジョエルも、目の前の患者の痛みを身体で感じながら治療に当た
る。なぜ彼の脳は他者と自分を区別できないのか。
■終 章 ジャンピング・フレンチマンを求めて
この旅の始まりとなった不思議な人々“ジャンパー”は全員亡くなったものと考えられて
いた。しかし、私は友人から届いた動画に、まさしく“ジャンパー”が映っていることに
驚く。ノルウェイで会社員として働く彼に会いにいった。
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