80年前の12月8日、真珠湾攻撃で日米戦争がはじまりました。そこに至る過程で重要な役割を果たしたのが東條内閣と大政翼賛会ですが、そこに偶然、3人のプロ野球(職業野球)球団のオーナーがいました。大政翼賛会の事務総長だった有馬頼寧伯爵はセネタースの、同会の総務を務めた正力松太郎は巨人軍の、そして東條内閣の商工大臣だった小林一三は阪急軍のオーナーだったのです。華族の有馬は趣味の延長、読売新聞社長の正力は部数拡大の宣伝材料、財界人の小林は商売として、それぞれ思惑は違いますが、戦前のプロ野球の興隆に力を尽くしました。それが、時局が戦争へと傾いていくなかで、3人はそれぞれの道を歩み始めます。プロ野球選手もどんどん徴兵され、戦地に投入されるようなり、有名選手から戦死者も出るようになったとき、3人はどうしたのでしょうか……。
野球の歴史に関する著作をたくさん世に送り出してきた筆者が、初めてオーナーに着目した本書は、歴史が動くとき、それに巻き込まれた人たちの悲劇をよく描き出しています。
終章巣鴨プリズンのようすで始まります。有馬も正力も、戦犯容疑で収監されていました。小林ものちに公職追放の憂き目にあいます。戦争協力者として断罪された3人ですが、公職追放が解けたあとはどうなったのか。
正力のアクの強さと、有馬、小林の繊細さが、戦後の明暗を分けますが、これは今の世の中でよくある光景ではありませんか。
野球だけでなく、戦争だけでなく、何か大切なことがわかったような気がする1冊です。
はじめに
1章 内閣誕生
提灯行列/二人の実業家/職業野球の先駆者/深みにはまって/球団の経営者/上井草の風景/伯爵のお気に入り/皇室からのお迎え
2章 日中戦争勃発
盧溝橋事件/戦時報道/国防献納試合/ライオン軍登場/チームの内紛/職業野球初の戦死者/不振の理由/
3章 兵力増強
強気な姿勢/新兵の一日/軍隊野球/名誉の負傷/戦争景気にわく新聞社/宣伝巡業の収穫/投げ出した内閣/兄を追いかけて
4章 新体制運動
野球の妙技/戦場になった球場/軍と新聞社の広告塔/開花した選手たち/出征を見送る父/グラウンドを越えた武勇伝/みじめな復帰/再び表舞台へ/苦難の満洲リーグ
5章 日米開戦
新体制をひも解けば/日本野球の精神/米国を挑発/空虚な宣言/吹き出した不満/退場していく人々/戦争への道
終章 戦犯容疑
獄中日記
おわりに
引用・参考文献
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