歌舞伎界屈指のサラブレッド、名門の天才坊やとして早くから注目された勘三郎と、
渋い脇役の家に重い期待を背負って生まれた三津五郎。
相次いで世を去った二人の名役者は、奇しくも同学年に生まれた──。
勘三郎と三津五郎が並んで踊っていると「フジテレビとNHKが踊っている」と三津五郎の叔母に冷やかされたという。明るくてひょうきんな持ち味の勘三郎がフジテレビ、端正で基本に忠実な美しさを湛えた三津五郎さんがNHK、というわけだ。
生い立ちも、性格も、藝も、すべてが対照的だった二人は、しかし、他人には窺い知れない絆で固く結ばれていた。
「名人はどんなに曲がった形になっても、お尻の穴から頭の上へ、一本の棒が通ってますよ。寿さん(三津五郎)がそうで、僕もそれを心がけてる」(勘三郎)
「幼い時から切磋琢磨してお互いに競ってきました。もう二度と一緒にやれないかと思うと、人生の半分をもぎ取られたような、何とも埋めようのない喪失感に襲われています」(勘三郎が亡くなったときの三津五郎のメールより)
天真爛漫な天才が人生ではじめて抱えた鬱屈、謙虚な名人が覗かせた譲れない意地。
宿命の星の下に生まれた二人は、藝の世界で、短くも激しく火花を散らしてこの世を去った。
生前、親交の深かった劇評家が明かす不世出の役者たちの知られざる物語。
****************************************2012年12月。誰からも愛された役者・勘三郎の葬儀で三津五郎は「哲明さん。哲ちゃん」と語りかけた。「君は僕の半年前に生まれ、気づいたら僕の前を歩いていました。小学2年生のときに、『白浪五人男』で初めて共演した時には、あなたはもう天才少年、勘九郎坊やとして人気でした」──そして涙声でこう声をを振り絞った。
「いまでも目をつぶれば、横で踊っている君の息遣い。いたずらっぽい、あの目の表情。躍動する体が蘇ってきます。肉体の藝術ってつらいね…。そのすべてが消えちゃうんだもの」そのわずか二年と少し後に、三津五郎自身もその後を追うようにこの世を去るとは誰も予想だにしなかった──。
元気でやんちゃな勘九郎ちゃん/俺は捨石になってもいい/成長期で崩れるバランス/まだ本当に教えてない/「人たらし」の素顔/後の世代の肉体に写す/無心であることの難しさ/喝采の後で一人で入る風呂/生へのすさまじいエネルギー/同種の動物の匂い/身体が震えるほどの興奮/夜中にベッドの中でもずっと踊っていた/目をパッチリ開けて大きく踊れ/やっとこさ、良くなりましたよ/三津五郎の意地/答えはまだおりてきません……/空白の年表(目次より)
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