作品紹介

言葉というのは実に奥の深いものです。私たちは普段、何気なく言葉を使っていますが、その裏側にはさまざまな微妙なニュアンスが込められていて、使い方を間違えると、不自然な感じを与えたり、誤解を生じたりします。商学部で教鞭をとっていた同志社大学名誉教授の著者は、中学生時代、稀代の言語学者・国語学者である時枝誠記の本と出会いました。時枝は、現代の記号論の祖・ソシュールの言語理論を真っ向から批判したことで有名ですが、著者はこの時枝との出会いを契機に、言葉への関心を深めます。最近、時枝を再読した著者は、時枝の考え方からいろいろと影響を受けていることに気づいたそうです。本書は、そうした著者による、日本語、特に「喜」「怒」「哀」「楽」などの感情を表わす言葉をめぐるエッセイを収めたものです。例えば、よく「不憫」という言葉が使われるが、それはどういう思いであり、どういうケースで用いられるのか、「怒(いか)る」と「怒(おこ)る」と「憤る」には、どういうニュアンスの違いがあるのか等々、時枝理論を咀嚼して「喜怒哀楽」の奥に潜むさまざまな感情に分け入り、その綾を探究し、日本語の精緻な構造に迫ります。言語学の知識をもとに言葉の神秘にいざなってくれる本書は、言葉に興味をもつ人なら存分に楽しめること請け合いです。

担当編集者より
若い頃、稀代の言語学者・国語学者である時枝誠記と出会い、以来、言語に関心を寄せてきた著者が、例えば「不憫」とはどういう思いであり、どういうケースで用いられるのか、「怒(いか)る」と「怒(おこ)る」と「憤る」には、どういうニュアンスの違いがあるのか等々、「喜」「怒」「哀」「楽」などの感情を表わす言葉の奥に潜むさまざまな心理に分け入り、その綾を探究し、日本語の精緻な構造に迫ります。言語学の知識をもとに言葉の神秘にいざなってくれる本書は、言葉に興味をもつ人なら存分に楽しめること請け合いです。
目次

Ⅰ「不憫」の部
1 悲しみを認めたくない哀しさ
(1)愛するものの死――悲しみを認めたくない
(2)不憫を感じる主体
(3)焼き場に立つ少年
(4)けなげさと律儀さが呼び起こす不憫
2 家族愛
(1)映画「かあちゃんしぐのいやだ」
(2)一体感を育む家族愛
3 貧乏
(1)ステータスとしての食卓
(2)アメリカ車と虎の剥製
(3)格差社会と憐憫
(4)貧乏のとらえ方
4 「しみじみ」と「つくづく」
(1)気持ちが通わないとき
(2)しみじみと味わう「哀れ」
(3)つくづくと味わわされる憐れ
(4)一体感を生む「哀れ」と同情心を誘う「憐れ」
5 「不憫」の構造
(1)「不憫」に対する感受性
(2)「不憫」の誘因
(3)「不憫」という言葉の用法
Ⅱ「喜」の部
1 うれしさ
(1)うれしさの感覚――五感
(2)うれしさの感情――涙
(3)うれしいときの笑顔とおかしいときの笑い顔
2 喜び
(1)目的達成感と目標到達感
(2)深層的なうれしさと表層的な喜びの関係
(3)大きな喜びはうれしさの積み重ね
(4)心のゆとり
(5)満足感の共有
3 悦び
(1)自己満足 ――「悦に入る」
(2)やせ我慢 ――「武士は喰わねど高楊枝」
(3)精神論――「精神一到何事かならざらん」
(4)奉仕
4 歓び
(1)歓迎
(2)皮肉混じりの歓び――歓迎のもう一つの意味
(3)受け入れるときの「安心」と受け入れてもらうときの「感謝」
5 慶び
(1)うれしさの分かち合い
(2)うれしさの共有――祝福
(3)日の丸――うれしさの共有の証
(4)国旗は祝い事の象徴
(5)終戦記念日
Ⅲ「怒」の部
1 情けなさ
(1)自責の念
(2)有終の美 ―― 晩節を汚さず
(3)賢母への期待
(4)「情けのない」人と無情な社会
(5)自分自身に対する「情けなさ」
(6)自分の悔いと他者への苛立ち
2 苛立ち
(1)じれったさと苛立ち
(2)気短な指導者と短気な指導者
(3)優れた指導者――利便性が不便をもたらさないように
(4)怒るという感情と叱るという理性
3 腹立ち
(1)他者を責める腹立ちと自分を責める腹立ち
(2)嘘と裏切り
(3)暴行
(4)苛立ちと腹立ち
4 憤慨
(1)「憤る」と「怒る」の用法上の違い
(2)私憤と義憤
(3)「憤り」の非攻撃性
5 喧嘩両成敗
(1)喧嘩両成敗――加害者と被害者
(2)勝者の論理
(3)戦勝国は「正」、敗戦国は「邪」
6 稚拙な戦争論
(1)少年時代に戻って戦争を考える
(2)公正なるレフリー
(3)戦争は法律に基づく抗争か
Ⅳ 哀の部
1 寂しさ
(1)喪失感
(2)ホームシック
(3)孤独感
(4)「寂しい」と「哀しがる」
2 はかなさ
(1)嘆きのイメージ
(2)感覚としての「頼りなさ」と感情としての「頼りなさ」
(3)無常観――あきらめと気概
(4)みじめ
3 切なさ
(1)胸の痛み
(2)「苦痛」からの解放
(3)「切なさ」の諸要素
4 哀しみ
(1)過去の栄誉
(2)哀しみと悲しさの違い
(3)哀れと共振、哀しみを共感
5 悲しみ
(1)「かなしみ」の表し方
(2)哀れと憐れの違い
(3)「哀」の涙と「悲」の涙の違い
(4)「悲」は「かなしみ」を代表する日本語
(5)「悲しさ」の表し方
Ⅴ 楽の部
1 ホビーとパスタイム
(1)「楽しみ」と「楽しさ」
(2)生きがいと娯楽
(3)達成感という楽しみと気晴らしという楽しさ
(4)本業と副業
(5)楽しさの逓増と楽しさの逓減
2 夢
(1)希望
(2)期待
(3)願い
(4)夢――「楽しみ」の総称
3 負担の軽減
(1)負担の軽減
(2)「苦痛」からの解放
(3)余裕と自信
(4)「快楽」と「苦痛」の交換取引
4 恥の回避
(1)罪と恥
(2)日本独自の恥の意識
(3)期待と意識のずれ
(4)制裁の抑止効果
(5)恥からの事前の解放
5 罪の償い
(1)呵責――漱石の『こゝろ』を読んで
(2)刑罰と罪悪感
(3)罪に対するもう一つの別の制裁
(4)刑罰の応報的効果と教育的効果と予防的効果
(5)事後的効果の事前的効果へのフィードバック
(6)応分の責任
補遺 感情表現としての言語――時枝誠記の「言語過程説」に基づく「喜」「怒」「哀」「楽」
1 言語と概念
(1)同義語による分節と類似語による結合
(2)言葉の意味――概念の内包と外延
(3)客体的言語観と主体的言語観
2 言語と生活様式
(1)食文化における分節と個物化
(2)色彩文化における分節と個物化
(3)生活環境の違いによる分節と個物化
(4)分節、個物化の必要性と頻度
3 共時態としての言語論と通時態としての言語論
(1)共時態言語論と通時態言語論、言語静態論と言語動態論
(2)言語の変化と歴史の変遷
(3)言葉の変化と言葉の意味の変化
(4)言語学と歴史学、言語学原理と言語史学
(5)主体的立場における「変化」と観察的立場における「変遷」
(6)自然科学としての言語学と文化科学としての言語学
4 言語構造論と言語過程説
(1)言葉の構造と機能
(2)言語主体説の社会性――言語の共通理解
5 「喜怒哀楽」の語順と語形
(1)「喜」「怒」「哀」「楽」の順序
(2)「喜怒哀楽」の品詞――語順(文章の中での位置)と語形
6 「怒」の特殊性
(1)「怒」の品詞
(2)相手に対する攻撃性
(3)「怒(おこ)る」と「怒(いか)る」と「憤る」
(4)忖度と思いやり
7 「喜怒哀楽」の表層構造と深層構造
(1)”うれしさ”に”げんこつ”
(2)哀しみの涙とうれし涙
(3)「喜」「怒」「哀」「楽」の相互関係
(4)もう一つの涙――感傷(sentimentality)
8 「喜怒哀楽」の主体と客体
(1)深層構造を表現する形容詞と表層構造を表す動詞
(2)「がる」――他者の深層感情を表現する形容詞の接尾語
(3)「たがる」――他者の第二次感情を表現する動詞の接尾語
商品情報
書名(カナ) キドアイラク コトバトカンジョウノエッセイシュウ
ページ数 272ページ
判型・造本・装丁 四六判 並製カバー装
初版奥付日 2022年04月28日
ISBN 978-4-16-009021-7
Cコード 0081

著者

瀧田 輝己

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