「KUMAさんの言葉の内側には 命へのぶ厚い歓喜がへばりついている」
――井浦新さん(俳優)推薦!
甲斐駒ヶ岳の山岳地帯に作業場をかまえ、鉄のゲージツ家として活動を続けてきたオレ。後期高齢者となった今は、畑に野菜を作って猿や鹿との攻防を繰り広げ、奈良東大寺から蓮の根をわけてもらい、美しい花を咲かせるのに熱中する日々だ。
そんな作業場へ、サングラスを掛けたスキンヘッドの男たちがやってきた。
「ああ、そうか。マロの一味だな」
「はい、弟子の舞踏者です」
目をやると、テンガロンハットに黒い革のコートをまとった「中央線の魔王」が、桜の木に寄りかかっていた。オレの作品のガラスの柱を舞台に使わせてほしいと言うのだ。
「クマ、一緒に踊るか」
「オレが? マロと?」
子どもの頃から歌も踊りも苦手なオレだが、マロに「ダイジョーブ、俺が演出するんだ。素直な躰ひとつ、お持ちいただけるだけでよろしいので」とまで言われて怯むのは「私に生きる才能は残っておりません」と白旗を掲げるようなものだ。・・・
こうして白塗りのメイクで、マロが率いる舞踏集団の初舞台を踏む「戯れの魔王」。
オッカサンの死を看取り、蓮の花が開いて散るまでを見守る「蓮葬り」。
毎朝、遥拝してきた甲斐駒ヶ岳の奉仕登山にいどむ「アマテラスの踵」。
山岳の作業場に迷い込んだ瀕死の仔猫を助ける「ささらほーさら」。
泉鏡花文学賞受賞『骨風』のKUMAさん、生きる実感に満ちあふれた最新小説集。
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