「キーンさんの言う通り、オペラにのめりこむと面白くてしょうがなくなっちゃう。魔法ですね」――小澤征爾(指揮者)
「そこにはかつてキーンさんが本誌のほか「音楽の友」や「音楽芸術」などに寄稿した
文章のいくつかが、新たな形で再録されている。読み返してみると少しも古びていない
。論じられている歌手たちの多くは、カラスを筆頭に、二十世紀半ばに活躍したアーテ
ィストたちであるが、今日では及びもつかないそうした超一流スターたちの姿が生き生
きと甦ってくる。みずからが味わった感動をできるだけ多くの人たちに分けあいたいと
いう、キーンさんの熱い思いがひしひしと伝わってくる文章には、むしろ新鮮な印象さ
え受ける」――中矢一義(音楽評論家)
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キーンさんが初めてオペラを観たのは15歳のとき。友達と連れ立って野外劇場で《カルメン》を観たキーンさんは、それまで上流社交界のものだと思っていたオペラが、ほかの舞台芸術にくらべてこんなに感動的だったのかと驚き、夢中になります。
15歳から96歳まで、長きにわたり、日本とオペラをこよなく愛したキーンさん。東劇のMETライブビューイングでは、上映前に一般のお客さんに向けて上演予定のオペラ作品の解説をなさることもしばしばでしたし、かつて雑誌『レコード芸術』などの常連筆者でもありました。日本文学研究の第一人者というだけでなく、熱狂的なオペラファンというもう一つの顔があったのです。オペラがかかると、嬉しくなって踊りだすキーンさんはまるで少年のようで、目がキラキラ輝いていました。
いまのオペラは外国語がわからなくても字幕が出ますし、生でオペラを観なくても、映画館でオペラを楽しめる時代になりました。オンラインでも楽しむことが可能です。オペラは手の届かない高尚な芸術ではなく、もっと気軽に楽しめる芸術なのです。
戦時下、ナチスがヨーロッパを支配しているときに見た『フィデリオ』の思い出、マリア・カラスの声を生で聴いたときの驚き、三島さんと語りあったオペラのこと、光源氏とドン・ジョヴァンニの比較論……。
日本と芸術をこよなく愛した、D・キーンさんからの最後の贈り物です!
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