すらっと伸びた脚と大きな目、最先端のセクシーなファッションに身を包んで政界に登場したときは、マスコミはこぞって「女性政治家の星」として好意的に取り上げた。しかし、史上最大級の選挙違反で逮捕されるや、手のひらを返したように、「稀代の悪女」としてここぞとばかりに叩いた。
河井案里。
参院議員として活動したのは二年足らずだったが、世間に大きなインパクトを残した。
彼女はマスコミの寵児となったが、実のところ、彼女のプライベートをよく知る記者はいない。
筆者は、当選直後から逮捕されるまで、インタビューなどの取材だけでなく、ことあるごとに電話やメールでやり取りをしてきた稀少な存在である。筆者の手元には、膨大な量の録音、メールがある。
あらためてそれらを読み返すと、不思議なことに気が付く。
宮崎で成功した建築家の家に生まれ、慶応大学に進学し、代議士の妻、そして自身も県会議員から参院議員と、これだけ聞くと恵まれすぎた人生のように見えるが、彼女からは、いっこうに幸せそうなようすがうかがえないのだ。
生きづらい女。
筆者は彼女の生まれた宮崎を訪れることからはじめ、その人生をあらためて取材してみた。すると、そこには、マスコミで見せた鼻っ柱の強い美人政治家とは別の顔が見えてきた。
タイトルの「おもちゃ」は、案里のメールにあった言葉だ。官邸も関与したであろう買収事件だから、きっと検察がもみ消してくれる。そんな期待は、黒川東京高検検事長のスキャンダルで吹き飛んだ。
「私も黒川さんも、権力闘争のおもちゃにされたんです」
河井案里という一人の女性政治家の人生を通して、現代社会における女性の生きづらさに迫る。
小泉純一郎、中村喜四郎に続く、政治家独白三部作の完結編。
はじめに
序章 甘い逃避行
銀座の苺ケーキ/「私、シャネル、買いません」/「セクハラって自立してない女の言うこと」/権力闘争のおもちゃ
第一章 ちょうどよい女の子
宮崎の豪邸育ち/「フゾク」への入学/積み木くずし/江藤隆美とサッチャーさん/「教育行政をやりたい」/堺雅人と同級生/クルド人を救え!/慶應SFC入学/「前田に慶應は難しい」/六会から下北沢へ/加藤寛、竹中平蔵、江藤淳/2000年の#MeToo運動/就職戦線の四重苦/長かった自分探し/「天城越え」/嫁に「ちょうどよい女性」
第二章 代議士の妻
あの日がすべてのはじまりだった/母から溺愛された「スネ夫」/松下政経塾から県議へ/最初の裏切り/「冬彦さん」/「じゃあ、小渕さんと結婚すればよかったですね」/広島を代表する閨閥・岸田家
第三章 広島県政のヌーベルバーグ
「私、こう見えても糟糠の妻なの」/「女の戦い」を制す/「政治家の妻」からの逸脱/尻ぬぐいの毎日/私には子どもがいない/「私、根負けしちゃった」/ドンとの邂逅
第四章 男らしく、女らしく
買収疑惑の原体験/「セフレ」/初めての大勝負/落選者のメンタルヘルス/幻の亀井新党入り
第五章 あんたは「政治の子」
選挙区を襲った大災害/「うち、お金がないんです」/擁立の舞台裏/強力なライバル/県議選か、参院選か
第六章 えこひいき
トラブルシューティング/宏池会憎しで/党本部からの援軍/鈴木宗男や亀井静香にも/安倍晋三の遺恨/ザクザク振り込まれたお金/安倍秘書軍団の投入/「4日で300社も回った」/眼球が焼けた
第七章 もらい事故
全裸で応酬/法の抜け穴/文春砲直撃/証拠隠滅工作/「アレ、なかったことでいいよね」/スケープゴート/「ヤメ検」が動く/「恋のから騒ぎ」というルート/「不撓不屈」
第八章 死ぬ瞬間
「私は悪くない」/「喜びのおすそ分けを頂いてるの」/「河井ルール」は「広島ルール」/夫婦で読破した伝記/私は大将/議員宿舎で自殺未遂/『ことばの部屋』/否認、怒り、取引、抑鬱、受容……/文学賞を目指して
第九章 とりまく女たち
「最後までヤらないから」/「特別な女」という自負/女性たちの逆襲/「週刊誌に流しましたか」/右腕だった女性秘書/拘置所からの温情/「離婚されたほうがいい」/みんな不幸になった/菅義偉から「がんばれ」/判決後の負け惜しみ
第十章 金毒
姉の献身/被買収者たちのその後/「お金を配らなくても勝てた」/受け取らなかった男/完璧主義者の共同作業/「巨悪は出てきません」/「政界の父」に問う
最終章 ニッポンを変えたい
たしかにニッポンは変わった/河井家の懐事情/1億5000万円の真相/克行の〝金づる〟だったのか/河井夫婦の祟り/「ざまあみろ、ざまあみろ」/岸田は変わった/離婚しない理由/克行の帰郷/案里からの挑戦状
おわりに
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