「待つ」ことでしか、進まなかった人生がある。
今は古びた平成初期の新興マンション。 その一室に、ひとりの年老いた男が、孫とともに住んでいた。
男が訥々と語る、心温まる、この部屋の思い出。
孫はここで、ずっと母を待っている。
この部屋に残された母の愛に囲まれて。
しかし、男が語る思い出はすべて“嘘”だった。
かつてこの男は、とある幼い兄妹から、この部屋を奪った。
男には、そうしなければならない、痛切な理由があったーー。
風吹く部屋で、ずっと誰かを待ち続けた、ある家族と男の物語。
水野良樹(いきものがかり)が筆名で描く、渾身の書き下ろし小説。
■著者からのメッセージ
すぐに話せて、すぐに理解できる。
待つことが少なくなったそんな世界において、人に会えず、先が読めず、いつ終わるかわからない、待つことを強いられ た3年間でもありました。
今という瞬間を侵食する過去との向き合い方。そして場所に沈殿し、宿り続ける記憶。
人生という自分たちの時間を、前に進めようともがく人々の物語です。
■清志まれ(きよし・まれ)/水野良樹(みずの・よしき)プロフィール
1982年生まれ。神奈川県出身。2006年「いきものがかり」でCDデビュー。 グループ活動のみならず、ソングライターとして楽曲提供多数。 2022年に初小説『幸せのままで、死んでくれ』(文藝春秋刊)を刊行し、小説の「主題歌」も同時に配信リリースされ 大きな話題となった。
なお、本小説のプロットから受けたインスピレーションを元に創り上げられた楽曲『ただ いま (with 橋本愛)』が、各種音楽配信サイト・ストリーミングサービスにて配信中。
本楽曲は女優の橋本愛が初めて作詞を手掛け歌唱を担当。
作曲は著者の清志まれ、編曲は鈴木正人が手掛けた。
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