人は誰しも生きている間に言葉を遺すものだ。ましてやひとかどの人物ならば、その言葉はしばしば含蓄に富んでいる。
送る側も、生前の偉人の言葉には激しく反応するから、追悼文はしばしば言葉の宝庫となる。
そんな言葉を集めてみたいという動機のもとに編んだのが本書である。
第一章では、松下幸之助、丸山眞男、石原裕次郎、千代の富士、やなせたかし、吉本隆明、小山内美江子、大平正芳などの、知られざる側面が、彼らを「師」と仰いでいた人物によって語られる。側近、もしくは身近な者だけに晒した「生の言葉」「生の姿」の迫力が凄い。
第二章では、水木しげるの晩年と壮年の日々を、奥様と娘二人が思い起こす。美術館であまりに解説がうまいために学芸員に間違われたエピソード、手塚治虫への想い、水木作品が古びない理由などを語る。
第三章で登場するのは美空ひばりである。最期の「不死鳥コンサート」に至るまでと、それを成し遂げたあとの凄まじいエピソードが明かされる。
第四章で語られるのは、稀代の作家にして政治家であった石原慎太郎であるが、息子の目を通した素顔はわれわれが知る姿とはかけ離れている。「オレは思いっきり女々しく死んでいくんだ」の真意とは?
第五章で阿川弘之を論じるのは、倉本聰氏である。氏にとっては、作品・人間・生き方・思想、そのすべてが好きで、まさに「師」以外の何物でもなかった。
第六章で立花隆を語るのは佐藤優氏である。二人は共著をものしているのだが、最初から立花とは波長が合わなかったと追想する。最後に佐藤氏を立花に近づけたものは何だったのか。
そして、本書では、保阪正康氏による半藤一利、澤地久枝氏による中村哲への追悼がつづく。
追悼文は、送り送られる人たちの、人生の縮図なのである。
第一章 私の師が遺した言葉
松下幸之助 「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」 野田佳彦
丸山眞男 「歴史をつくるのは少数者だ」 三谷太一郎
石原裕次郎 「ようやくオレたちの仲間に入れたな」 峰竜太
井上ひさし 「僕は選考委員を降りないといけない」 野田秀樹
田部井淳子 「エベレストも登りたくて登っただけよ」 市毛良枝
後藤田正晴 「けしからん! これじゃ、政治にならん」 的場順三
千代の富士 「バカヤロー、お前は何しに来てるんだ!」 九重龍二
やなせたかし 「天才であるより、いい人であるほうがずっといい」 梯久美子
吉本隆明 いつでも僕の家に遊びにきてください」 糸井重里
蜷川幸雄 「あとは君たちの演技だけだ」 鈴木杏
司馬遼太郎 「昆布の味しかしないねえ」 村木嵐
小山内美江子 「そのまま、ふわりと演じているからかな」 名取裕子
黒田清 「魔法の筆だ。自分でよく言うよ」 大谷昭宏
大平正芳 「君はヒンクを経験しているじゃないか」 古賀誠
田辺聖子 「頭の中で人物たちが勝手に会話し出すの」 綿谷りさ
第二章 水木しげる 「妖怪」と「家族」を愛した漫画家の幸せな晩年
武良布枝(夫人)×尚子(長女)×悦子
第三章 美空ひばり――僕は「不死鳥コンサート」には反対だった
加藤和也
第四章 石原慎太郎――父は最期まで「我」を貫いた 石原延啓
第五章 わが師・阿川弘之先生のこと 倉本聰
第六章 立花隆――私とは波長が合わなかった「形而上学論」 佐藤優
第七章 半藤一利さんが私たちに残した「宿題」 保阪正康
第八章 中村哲さんがアフガンに遺した「道」 澤地久枝
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