小さな白骨が呼び覚ます、幼き日の罪と友情。集大成にして新たな代表作『琥珀の夏』にかける思い

作家の書き出し

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小さな白骨が呼び覚ます、幼き日の罪と友情。集大成にして新たな代表作『琥珀の夏』にかける思い

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

辻村深月インタビュー

世代の継承によって進化するのがミステリーの魅力

――選考委員といえば、いろいろ務めていらっしゃいますよね。「女による女のためのR-18文学賞」の選考委員は今年で任期終了だそうですが、今年の本屋大賞作家、町田そのこさんを選出したのも、辻村さんと三浦しをんさんが選考委員の時でしたよね。

辻村 町田そのこさんを世に送り出せたことにはすごく“手柄感”があります(笑)。一木けいさんとか白尾悠さんとか、デビュー後もすごくいいものを書かれている方が多くて、頼もしいですね。短篇の賞ですけれど、その後に書かれた長篇を読むと、「デビューさせたい」と思ったこっちの気持ち以上のことを作品で返してくださっていると感じます。

 はじめは私が新人賞の選考委員をやっていいのかなとも思いましたが、たとえば「R-18」なら、三浦しをんさんが何をどう評価されるかがすごく勉強になったりして。ただ普通に会うのではなく、間に小説を挟んで第一線の同業者の方々と意見を交わせる喜びを感じています。

――それこそ「横溝正史ミステリ&ホラー小説大賞」では、綾辻行人さんと一緒に選考委員を務めていらっしゃいますよね。

辻村 最初は、選考会の当日の朝まで不安でたまりませんでした。綾辻さんに「深月ちゃん、ダサい読み方するんだね」とか思われたらもう生きていけないって(笑)。もちろん、綾辻さんの顔色を見ながら応募作品を評価したりはしませんが、それでも緊張しながら臨んだ当日、お互いに大きな敬意を抱き合っている綾辻さんと有栖川有栖さんが、迷いなく真逆の評価を付けていたりするんです。「有栖川さんはそう言うけど、僕はこれが面白かった」という綾辻さんや、「綾辻さんはそう言うけれど、ここが魅力だと思う」という有栖川さんを見ていて、小説って明確な正解がある世界ではないし、選考も楽しみながら読んでいいのだと安心しました。

――他にはどんな賞の選考委員をされていますか。

辻村 「小説 野性時代 新人賞」と「松本清張賞」、「日本ミステリー文学大賞新人賞」、それから「小学館ノンフィクション大賞」ですね。ノンフィクションもまた全然違うから面白いですね。

――応募者に何かアドバイスをするとしたら?

辻村 何らかのパイオニアになってほしいです。何にも似ていないものを書いてほしい。たぶん、全体的に完成度が高いものや、満遍なく整っているものって評価が高くなりやすいんですけれど、ずば抜けた個性で、見たことのないような小説が出てくると、いびつであってもみんなそっちの方に惹かれるんですよ。

 私はずっと綾辻さんの小説を読んできて、今、綾辻さんに同業者って呼んでもらえることが誇らしいんです。今度は私の書いたものを読んできた人たちが、それを血肉にして書いてきてくださったら光栄に思います。

――ああ、先日「吉川英治文学新人賞」を受賞した武田綾乃さんも、ずっと辻村さんの小説を読んできたと仰っていましたね。

辻村 武田さんは、対談でお会いした時も、私の小説のことを大好きですと言ってくださって、本当に自由に読んで受け取ってくれているのが感じられて嬉しかったです。一方で私も、シリーズをあれだけの熱量とスピードで書き続けていて、読者との関係も大事にしている武田さんには同業者として敬意を持っていました。きっとこの先に、武田さんの小説を読んで育った人たちが作家として出てきますよね。

 綾辻さんたちともよく話すのですが、ミステリーというジャンルは、キャリアが長い人間が新人の小説を読み、そこで描かれる新しさや個性に常に注目し、ジャンルごと進化し続けてきた歴史があるんですよね。最近、自分でもそれを実感できる機会が増えて、幸せを感じます。

――この先、どんな作家生活を送っていきたいですか。

辻村 いつか書きたいと思っているものは、本当にたくさんあります。「きっと大作になるからまだだな」「今じゃないな」と思っていたものも、そろそろ書かないと一生書かないままになりそうなので、大変だけどそろそろ手をつけていこうと思い始めました。まだ形になるか分からないし、他の人に先を越されたくないので題材やテーマは伏せておきますけど(笑)。

 それとは別に、青春小説も今の自分が書いたら以前とは違う形になるだろうから、自分を信じてまた飛び込んでいきたいなと思っています。あ、そうそう、初期の頃の『ぼくのメジャースプーン』の続篇にも着手していますので、お待ちいただけたら嬉しいです!

撮影:佐藤亘


つじむら・みづき 1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『オーダーメイド殺人クラブ』『水底フェスタ』『ハケンアニメ!』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『青空と逃げる』『嚙みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』など著書多数。21年6月、最新刊『琥珀の夏』刊行。

琥珀の夏辻村深月

定価:1,980円(税込)発売日:2021年06月09日

別冊文藝春秋 電子版38号 (2021年7月号)文藝春秋・編

発売日:2021年06月18日