ヒット連発中! 浅倉秋成が語る「絶対読んでしまう物語」の極意とは?

作家の書き出し

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ヒット連発中! 浅倉秋成が語る「絶対読んでしまう物語」の極意とは?

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

『ショーハショーテン!』で小畑健さんと共作

――お話をうかがっていると、浅倉さんは論理的に物事を考えるタイプかなと思うのですが。

浅倉 たぶん、嫌になるくらい理屈っぽいと思います。なにかひっかかることがあったら、答えが出るまで論理的に考えようとします。

――やはり。浅倉さん原作で小畑健さんが漫画を描かれている『ショーハショーテン!』を読んでもそう感じます。高校生の男子2人が芸人を目指す話ですが、どういう場面でどういう笑いを作り出すか、すごく丁寧に分析して解説していますね。

浅倉 面白い人でありたいという欲求はたぶん、昔からありました。僕がいた学校では、面白くないと馬鹿にされる空気があったんですよね。小中学校の同級生に、今は「レインボー」というコンビでジャンボたかおの名前で芸人をやっている奴がいたりして。『ショーハショーテン!』の一巻のおまけページに小学六年の時に一緒にネタを披露した同級生のことを書きましたが、実はそいつがジャンボ君なんです。

 彼とはその後、中学高校でもお笑いを一緒にやることになって、高校生の時には、『ショーハショーテン!』の主人公たちが挑戦する「笑――1甲子園」にあたる大会にも一緒に出たりして。僕はこういう性格なんで、どうしたらウケるのか、理屈でずっと考えていました。この歳になってようやく、それが少しずつ体系化されてきました。

――どういうきっかけで漫画の原作を担当することになったのですか。

浅倉 結論から言うと、僕の持ち込みです。僕は講談社でデビューさせてもらったんですが、初代担当者さんがすぐ異動になっちゃったんです。異動先が少女漫画雑誌で、「漫画原作でもやってみる?」「うちの読者はこういうのが好き」みたいな話をわーっとしてくれたんです。それを聞いて、お笑いの話が作れるなと思って。僕が考えたのは、女の子がいて、その子は同じクラスの爽やかな男の子が好きで、その男の子が「俺、面白い女の子が好きなんだよね」と言っていると知り、なにを思ったか芸人になろうとする。そこに転校してきた別のイケメンが高校お笑い大会みたいなものの元チャンピオンで、女の子がお笑いを教わろうとしたら、この手の漫画によくあるように、「俺はもうお笑いはやらない」と言う……という話です。初代担当者も面白がってぜひ漫画にしようと言ってくれました。

 僕はこれ、上手くやれば、『ちはやふる』みたいになると思ったんですよ。でもその人がまた異動になり、そこからさらにいろいろあり、結局原稿が宙に浮きまして。それで文章のままでもしょうがないからネームにしたんです。それをネームで応募できる新人賞に出そうとしたら、初代担当者に「持ち込めよ」と言われて。それで「どうせなら記念でまず『ジャンプ』に」と集英社に電話しました。持ち込みに応対してくれるのはだいたい編集部で一番若い人なんですが、ラッキーなことに、その人がお笑い大好きという方だったんです。で、読んで「面白いです!」と言ってくれて。『バクマン。』で見たような展開になってきたぞと思いました(笑)。

「これ僕の名刺です」って渡されて、「あ、名刺渡されたら第一関門突破って書いてあった!」しかも、続いて「何か飲まれます?」って訊かれて。「これも『バクマン。』と一緒だー!」って内心盛り上がりました。

 そこから話が始まって、やっぱり少年漫画なので男2人にして、ガッツリお笑いの話にしましょう、となりました。そんななかで数奇な運命を経て、小畑先生に作画をしていただけることとなりました。

――コントや漫才のシーンも丁寧に描かれるじゃないですか。漫画で間とかテンポとか抑揚を感じさせるのって難しいと思うのに、すごいなあ、と。これ原作はどういう形で渡しているのですか。

浅倉 僕が構成を作ってネームを切っています。お話を考えてネームを切って、実際にお笑いの舞台にも立ったことのある原作者って、あんまりいないと思うんです。

――いないと思います。って、ご自分でネームまで切ってるなんて、びっくりです。そういえば、浅倉さん、小さい頃は漫画家になりたかったんですよね?

浅倉 小学生の頃、クラスの5、6人で漫画雑誌を作って回し描きしていました。そのうちの一人がジャンボ君でした。でも正直、その時の実績はあんまりないですね。

――小学生の時に『吾輩は猫である』が読めなくて読書から遠ざかったそうですが、漫画やアニメで物語は堪能していたわけですよね。

浅倉 漫画はかなり読みましたね。深夜アニメはもうラブコメばっかり見てました。だから人生おかしくなっちゃったんですよ。

――おかしくなってませんよ(笑)。

作家としての目覚めは大学生のとき

浅倉 作り手に回ろうという意識は大学生くらいまではまったくなかったと思います。大学は文学部の心理学科だったんです。文学部なので結構文学の授業もあって、その一環で東野圭吾先生の『容疑者Xの献身』を読んだら「あれ、俺でも楽しく読める!」となって。そこから自分でも物語を作りたくなって、大学2年生くらいまでは漫画を描こうと思ってたんですよね。でもやりたい話はわりとシリアスなのに、自分はちょっととぼけた絵を描いていたので、話に合わなくて。次第に自分の画力の限界を感じるようになって、これは小説のほうがうまくいくんじゃないかと考えました。選択授業で文芸創作講座もありましたし。

――さっそく書いて新人賞に応募したんですか。

浅倉 無謀にも小説を5冊くらいしか読んでいない段階で一本書いたんですよ。それを全応募作に講評がつく講談社BOX新人賞に送ったら講評に「文章が稚拙である。音読して読み直してほしい」と書かれ、稚拙なんてことあるかよチキショー! と思って自分の書いたものを見直したら、いや、ひどいもんでした(笑)。そこで反省して、読書量を増やして、文章に対するとらえ方も少しずつよくなって、それでデビューに至りました。

――大学4年生の時に講談社BOX新人賞Powersに『ノワール・レヴナント』を応募して、社会人1年目の時に受賞が決まってデビューされたんですよね。小説を5冊くらいしか読んでいないところからのスタートなのに、デビューまでめちゃくちゃ速いですね。

浅倉 ありがたいことに、勘はいいほうだと思います。ネームの切り方も最初はへたくそで、持ち込んだ時に「細かすぎますよ」と怒られたんです。そこから何冊か「ネームの極意」みたいな本を読んだだけなんですが、担当さんからも「こんなにすぐ切れるようにはなかなかならない」と言われました。

 理屈っぽい性格なので、なんでもまず構造を見るんです。こういう構造だからこうしたらいいという部分を見つけて改善して前に進めていく、みたいなことは昔から好きです。あと、練習もわりと好きなんですよ。

――それで、文体も自在に変えられるようになって。

浅倉 いや、ぜんぜん自在だとは言えないです。毎回精一杯です。今回の場合も、ちょっとドライな感じにしたくて、比喩表現はあまり使わないでおこう、などとすごく考えながら書きました。

 デビューして最初の3作目くらいまでは特に、文章に対する意識はものすごく低かったです。世に出た順番は『教室が、ひとりになるまで』が先ですが、その前に『九度目の十八歳を迎えた君と』を書いていて、その時にようやく自分の文章の書き方は間違っていたと自覚しました。

文章に対する考え方が変わった

――間違っていたとはどういうことですか。

浅倉 それまでは足し算でやっていたんです。これを描写するためには何を足せばいいんだろう、って。でも、『九度目~』の頃から、そうではなくてどこを省略するのか、引き算が大事だなとわかってきて。いかに読む人に負担をかけずに遠くまで一緒についてきてもらうかなんだな、って。

 ただ難しいのは、自分もそうだったからわかるんですが、本を読まない人って、次々に展開されると頭が追いつかないから疲れちゃう、という側面があるんです。たとえば教室の説明なら、「教室」と一言で言わずに、前方に黒板があって、後ろにもちっちゃい黒板があって、机が30個くらいあって……と、タラタラ説明したほうが、読書が苦手な人には意外と読みやすかったりする。それに自分も、このへんはちょっとスピードを落として読んでほしいなという時に、わざと難しい単語とかを入れたりもしますし、結局、塩梅だなと思うんですよね。どこまで足してどこまで引くかに関しては、永遠に悩みが続くんだろうなという気がします。

――浅倉さんはもともとミステリー作家志望ではなかったですし、今も『ショーハショーテン!』でミステリーではない作品に携わっていますが、いわゆるジャンルについては、どういう思いがありますか。

浅倉 もともとエンタメというものが大好きだったわけですが、いつだったか編集者さんに「バトル漫画もロジックの応酬という意味ではミステリーですよね」と言われたんです。このパンチが効かないのはこれこれこういう理由だから、それに対してはこのパンチを打つことで倒せる……というのはロジックだし、ロジックが通る限りミステリーになりうる、という話でした。それこそ自分も『ショーハショーテン!』で、このネタはこうでこうだからこの場でウケた、というロジックをやっているんですよね。だから、自分が今ミステリーをやっているのは、別の地域に引っ越したというよりは、照準を絞って打っている感覚です。

 究極の目標としては、面白い物語が作れればいいんです。その時に、エンタメのビリビリした刺激だけじゃない何かを味わってもらえたらいいな、そのために頑張っていけたら嬉しいなって思っているなかで、今はいっぱいフィールドを頂けているので、たまらなく幸せな状態です。

――今後のご予定は。

浅倉 まだ一文字も書いていないんですけれど、一応順序としてはKADOKAWAさんで家族ものをやろうという話になっています。家族って温かくていいものだよねっていう話にはならないと思うんですけれど、新しい角度で、ミステリーとしてもエンタメとしても楽しいものを模索している途中です。それとは別に、今回50代の男性を書いたので、今度は逆に中学生くらいの女の子を書いてみようかなとも考えているところです。

撮影:今井知佑


あさくら・あきなり 1989年生まれ。2012年に第13回講談社BOX新人賞Powersを『ノワール・レヴナント』で受賞しデビュー。19年刊行の『教室が、ひとりになるまで』が第20回本格ミステリ大賞、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネート。21年、『六人の噓つきな大学生』でブランチBOOK大賞2021受賞、第5回未来屋小説大賞第2位ほか各種年末ミステリーランキングや2022年本屋大賞にもランクイン。コミック『ショーハショーテン!』(漫画:小畑健)の原作も担当。最新刊は『俺ではない炎上』。


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