著者はかつて、当局にイスラム過激派と疑われたために職も婚約者も失ったと訴える、ムスリムの青年を取材したことがあった。クウェート難民としてロンドンで育ち、大学でITを学んだ礼儀正しい青年、ムハメド・エムワジは数年後、イスラム国の黒覆面の処刑人「ジハーディ・ジョン」となり、湯川遥菜さんや後藤健二さんらを斬首することになる。エムワジはなぜ、凶悪なテロリストになったのか。「ジョン」と会った唯一のジャーナリストによる決定的評伝。
彼の足跡を辿ると、欧米社会で育ったムスリムの若者たちが偏見や差別にさらされ、将来に絶望する日々のなかで過激思想に染まっていく状況が見えてくる。テロ対策の名のともにイスラム社会に行っている、抑圧や監視が若者たちの先鋭化につながり、ジハード戦士を生み出す土壌になっている、と著者は指摘する。ジハーディ・ジョンの替えは、いくらでもいるのだ。「クローズアップ現代」でキャスターを務めた、国谷裕子氏の渾身の解説も必読!
(目次)
序章 わたしは「ジョン」と会っていた
人質を跪かせ、その首を斬り落とす蛮行で世界を震撼させた黒覆面の死刑執行人は誰なのか? 著者は5年前、イスラム国の「ジハーディ・ジョン」ことモハメド・エムワジに会っていた。当時の彼は礼儀正しい青年だった。
第一章 クウェートから来た少年
クウェート難民の息子としてロンドンで育ったエムワジは、サッカーが好きな少年だった。十代になると不良仲間と酒を飲み、大麻を吸って過ごした。やがて大学に進学するが、そこは過激なイスラム教徒の巣窟だった。
第二章 イスラム過激派のネットワーク
ロンドンには、アルカイダなど過激派グールプに憧れるムスリムの若者たちや、ジハードを煽動する聖職者のネットワークが存在した。大学生になり、コーランを学び始めたエムワジは、徐々に過激思想に惹かれていく。
第三章 MI5とアフリカの角
ソマリアの過激派の影響力を恐れたMI5(保安部)はイスラム社会への監視体制を強化する。エムワジも卒業旅行で行ったタンザニアで入国を拒否された。そんなムスリムの若者たちの窮状を著者は取材することになる。
第四章 素顔のエムワジ
婚約したエムワジだったが、MI5の嫌がらせで破談に。クウェートに渡り、新しい仕事と結婚相手に巡り合うが、英国政府の干渉で国外追放となる。迫害の実態をメディアに訴えるべく、エムワジは著者に接触してきた。
第五章 監視対象
クウェートでの新生活を台無しにされたエムワジは、MI5監視下のロンドンで失意の日々を過ごす。一方、ソマリアに渡ったエムワジの仲間たちはアルシャバーブの戦闘員になるが、米軍のドローン攻撃で爆死する。
第六章 シリアへの道
勃発したシリア内戦に多くのイスラム過激派が集結し、兵を募った。国外脱出に成功したエムワジも現地に馳せ参じ、戦士の一人になる。やがて彼の属する部隊は、後に「イスラム国」と名乗ることになる組織と合流する。
第七章 世界を震撼させた斬首
人質の救出作戦に失敗した米国は、イスラム国への空爆を開始する。対抗するイスラム国は、ナイフを持った黒覆面の男が米国人の人質を斬首するビデオをネットで公開する。処刑人「ジハーディ・ジョン」のデビューだ。
第八章 テロリストの逆流
ジョンが死んでも、テロの脅威は終わらない。危険なのは戦地から欧米諸国へ流入するジハーディストと、SNSを通じてイスラム国に洗脳された欧州のムスリムの若者たちだ。そして「パリ同時多発テロ」が勃発する。
最終章 「ゼロ・トレランス」の罠
英国ではムスリムの若者たちへの監視体制を強化する「防止戦略」を徹底し、過激思想に対して「ゼロ・トレランス(不寛容)」の姿勢を示した。だが、その対策は功を奏さず、逆に若者たちの先鋭化につながっている──。
解説 『ジハーディ・ジョンの生涯』を読み、後藤健二さんを想う (国谷裕子)
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