書名(カナ) | スウガクノダイトウイツニイドム |
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ページ数 | 488ページ |
判型・造本・装丁 | 四六判 上製 上製カバー装 |
初版奥付日 | 2015年07月15日 |
ISBN | 978-4-16-390280-7 |
Cコード | 0098 |
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗
上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。
17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。
360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。
私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」「調和解析」「ガロア群」「リーマン面」「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。
それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。
この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。
〈目次〉
はじめに 隠されたつながりを探して
数学の世界で過去半世紀の間に生まれたもっとも重要なアイディアが、ラングランズ・プログラムだ。大きくかけ離れて見える数学の各領域のあいだに、さらには量子物理学の世界にまで、胸躍る魅力的なつながりがあるという刺激的な予想だ。
第1章 人はいかにして数学者になるのか?
旧ソ連のロシアに生まれたわたしは、量子物理学者になりたかった。クォークを発見した物理学者のゲルマン。でも、ゲルマンはなぜ、それを発見できたのだろう。「そこにはきみの知らない数学がある」。両親の古い友人の数学者が言ったのだ。
第2章 その数学がクォークを発見した
その両親の友人の数学者は、クォークの発見に、対称性とは何かを記述する「群」という数学が関係していたことをわたしに教えた。観察ではなく、理論によって何かの存在を予想する。それは数学にしかできない。
第3章 五番目の問題
ソ連のパスポートには五番目の欄にナショナリティーを記すことになっていた。わたしはロシア人として登録をされていたが、父はユダヤ人であった。このことが、モスクワ大学の受験に問題となる。
第4章 寒さと逆境にたち向かう研究所
モスクワ大学の試験官が問わず語りに口にした「石油ガス研究所」。わたしたち一家は、そこに一縷の望みをかける。そこは旧ソ連の中でユダヤ人が、応用数学を学べる研究所だった。全体の反ユダヤ政策のニッチをつき、優秀な学生をあつめていたのだ。
第5章 ブレイド群
アドバイザーを得られずに失望していたわたしに、学校でもっとも尊敬される教授が声をかけてきた。「数学の問題を解いてみたいと思わないかね」。それが、「ブレイド群」と呼ばれる数学に取り組んでいるフックスとの出会いだった。
第6章 独裁者の流儀
フックスの与えた問題を、わたしは別の数学を使うことで解いた。フックスは、その証明をあるユダヤ人数学者が主宰する専門誌に投稿することを勧める。その数学者こそ、様々な数学間の架け橋をかけようとしていたパイオニアだった。
第7章 大統一理論
それぞれの数学を「島」だと考えてみよう。大部分の数学者はその島を拡張する仕事
にとりくんできた。しかし、あるとき、「島」と「島」をつなげることを考えた数学者が現れた。悲劇の数学者ガロアが死の前日に残したメモにその革新的な考えはあった。
第8章 「フェルマーの最終定理」
ラングランズ・プログラムがどういうものかを知るには、「フェルマーの最終定理」
がどうやって証明されたかを知るといい。三百五十年間にわたって数学者を悩ませた
難問は、まったく別の予想を証明することで解けたのだ。
第9章 ロゼッタストーン
数論と調和解析のあいだだけではない。幾何学や量子物理学にいたるまでまったく違うと思われていた体系に密接な関係があるらしいことがわかってきた。そのことの意味は、ある領域でわからない事柄も他の領域を使って解くことができるということだ。
第10章 次元の影
写真は実は時間という次元を加えた四次元の世界を二次元におとしこんでいる影と考えることができる。数学は四次元以上の高次元を、三次元、二次元の世界におとしこみ記述することで、より複雑な世界を理解する唯一のツールなのだ。
第11章 日本の数学者の論文から着想を得る
日本の数学者脇本の論文から得た着想を一般化することはできるのか? 一度は失敗したその試みを、生涯の共同研究者となるひとりの数学者との出会いが突破させる。その仕事は、量子物理学の複雑な問題を解く強力なツールを提供することに。
第12章 泌尿器科の診断と数学の関係
フックスやフェイギンと純粋数学の境界を拡張する仕事に挑む一方、わたしの所属す
るケロシンカの応用数学部では、泌尿器科の医者たちとの共同研究をしていた。医者
は、数学者の思考方法を求めていた。それは診断にも応用できるものなのだ。
第13章 ハーバードからの招聘
ゴルバチョフの登場とともに、これまで固く閉ざされていた西側への扉が開きはじめた。そんなとき、わたしはハーバードから客員教授として招聘をうけ、生まれて初めてソ連の外に出た。ボストンには数学の才能が集り、心ときめく熱い時間があった。
第14章 「層」という考え方
新しい仲間、ドリンフェルドもまたソ連の反ユダヤ人政策の犠牲者だった。後にフィ
ールズ賞を受賞する彼は、モクスワに仕事を得ることすらできなかった。しかし、孤独
の中で彼が発展させたのは、リーマン面を大統一に組み入れる「層」という考えだった。
第15章 ひとつの架け橋をかける
博士論文は、リー群Gとラングランズ双対群LGという異なる大陸に橋をかけることに関する仕事だった。それはわたしがモスクワでとりくんでいたカッツ- ムーディー代数を利用することによって可能になるのだった。ソ連の崩壊が目前に迫っていた。
第16章 量子物理学の双対性
純粋数学史上初めての巨額の研究資金が下りた。わたしはプリンストン高等研究所で、数学と量子物理学のつながりを探るためのプロジェクトを始めることにした。それは、数学が現実の世界を先取りしていることを確認する過程でもあった。
第17章 物理学者は数学者の地平を再発見する
最大の挑戦は、ラングランズ・プログラムに四つ目のコラムを打ち立てることだ。すなわち量子物理学との関係を調べることである。多次元の問題を二次元、三次元にお
としこみ、その試みが始まる。物理学者は数学者の発見した空間を再発見する。
第18章 愛の数式を探して
二〇〇八年、わたしはある映画監督とともに、数学に関する映画を作り始める。三島
由紀夫の『憂国』に影響をうけた映画のワンシーン。女性の体に彫った刺青は、「愛
の数式」だ。それは、量子論の矛盾を解く可能性のある数式でもあった。
エピローグ われわれの旅に終わりはない
訳者解説 数学者はあきらめない
はじめに 隠されたつながりを探して
数学の世界で過去半世紀の間に生まれたもっとも重要なアイディアが、ラングランズ・プログラムだ。大きくかけ離れて見える数学の各領域のあいだに、さらには量子物理学の世界にまで、胸躍る魅力的なつながりがあるという刺激的な予想だ。
第1章 人はいかにして数学者になるのか?
旧ソ連のロシアに生まれたわたしは、量子物理学者になりたかった。クォークを発見した物理学者のゲルマン。でも、ゲルマンはなぜ、それを発見できたのだろう。「そこにはきみの知らない数学がある」。両親の古い友人の数学者が言ったのだ。
第2章 その数学がクォークを発見した
その両親の友人の数学者は、クォークの発見に、対称性とは何かを記述する「群」という数学が関係していたことをわたしに教えた。観察ではなく、理論によって何かの存在を予想する。それは数学にしかできない。
第3章 五番目の問題
ソ連のパスポートには五番目の欄にナショナリティーを記すことになっていた。わたしはロシア人として登録をされていたが、父はユダヤ人であった。このことが、モスクワ大学の受験に問題となる。
第4章 寒さと逆境にたち向かう研究所
モスクワ大学の試験官が問わず語りに口にした「石油ガス研究所」。わたしたち一家は、そこに一縷の望みをかける。そこは旧ソ連の中でユダヤ人が、応用数学を学べる研究所だった。全体の反ユダヤ政策のニッチをつき、優秀な学生をあつめていたのだ。
第5章 ブレイド群
アドバイザーを得られずに失望していたわたしに、学校でもっとも尊敬される教授が声をかけてきた。「数学の問題を解いてみたいと思わないかね」。それが、「ブレイド群」と呼ばれる数学に取り組んでいるフックスとの出会いだった。
第6章 独裁者の流儀
フックスの与えた問題を、わたしは別の数学を使うことで解いた。フックスは、その証明をあるユダヤ人数学者が主宰する専門誌に投稿することを勧める。その数学者こそ、様々な数学間の架け橋をかけようとしていたパイオニアだった。
第7章 大統一理論
それぞれの数学を「島」だと考えてみよう。大部分の数学者はその島を拡張する仕事
にとりくんできた。しかし、あるとき、「島」と「島」をつなげることを考えた数学者が現れた。悲劇の数学者ガロアが死の前日に残したメモにその革新的な考えはあった。
第8章 「フェルマーの最終定理」
ラングランズ・プログラムがどういうものかを知るには、「フェルマーの最終定理」
がどうやって証明されたかを知るといい。三百五十年間にわたって数学者を悩ませた
難問は、まったく別の予想を証明することで解けたのだ。
第9章 ロゼッタストーン
数論と調和解析のあいだだけではない。幾何学や量子物理学にいたるまでまったく違うと思われていた体系に密接な関係があるらしいことがわかってきた。そのことの意味は、ある領域でわからない事柄も他の領域を使って解くことができるということだ。
第10章 次元の影
写真は実は時間という次元を加えた四次元の世界を二次元におとしこんでいる影と考えることができる。数学は四次元以上の高次元を、三次元、二次元の世界におとしこみ記述することで、より複雑な世界を理解する唯一のツールなのだ。
第11章 日本の数学者の論文から着想を得る
日本の数学者脇本の論文から得た着想を一般化することはできるのか? 一度は失敗したその試みを、生涯の共同研究者となるひとりの数学者との出会いが突破させる。その仕事は、量子物理学の複雑な問題を解く強力なツールを提供することに。
第12章 泌尿器科の診断と数学の関係
フックスやフェイギンと純粋数学の境界を拡張する仕事に挑む一方、わたしの所属す
るケロシンカの応用数学部では、泌尿器科の医者たちとの共同研究をしていた。医者
は、数学者の思考方法を求めていた。それは診断にも応用できるものなのだ。
第13章 ハーバードからの招聘
ゴルバチョフの登場とともに、これまで固く閉ざされていた西側への扉が開きはじめた。そんなとき、わたしはハーバードから客員教授として招聘をうけ、生まれて初めてソ連の外に出た。ボストンには数学の才能が集り、心ときめく熱い時間があった。
第14章 「層」という考え方
新しい仲間、ドリンフェルドもまたソ連の反ユダヤ人政策の犠牲者だった。後にフィ
ールズ賞を受賞する彼は、モクスワに仕事を得ることすらできなかった。しかし、孤独
の中で彼が発展させたのは、リーマン面を大統一に組み入れる「層」という考えだった。
第15章 ひとつの架け橋をかける
博士論文は、リー群Gとラングランズ双対群LGという異なる大陸に橋をかけることに関する仕事だった。それはわたしがモスクワでとりくんでいたカッツ- ムーディー代数を利用することによって可能になるのだった。ソ連の崩壊が目前に迫っていた。
第16章 量子物理学の双対性
純粋数学史上初めての巨額の研究資金が下りた。わたしはプリンストン高等研究所で、数学と量子物理学のつながりを探るためのプロジェクトを始めることにした。それは、数学が現実の世界を先取りしていることを確認する過程でもあった。
第17章 物理学者は数学者の地平を再発見する
最大の挑戦は、ラングランズ・プログラムに四つ目のコラムを打ち立てることだ。すなわち量子物理学との関係を調べることである。多次元の問題を二次元、三次元にお
としこみ、その試みが始まる。物理学者は数学者の発見した空間を再発見する。
第18章 愛の数式を探して
二〇〇八年、わたしはある映画監督とともに、数学に関する映画を作り始める。三島
由紀夫の『憂国』に影響をうけた映画のワンシーン。女性の体に彫った刺青は、「愛
の数式」だ。それは、量子論の矛盾を解く可能性のある数式でもあった。
エピローグ われわれの旅に終わりはない
訳者解説 数学者はあきらめない
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