高校生直木賞 参加21校の代表生徒たちの声(2)

高校生直木賞

高校生直木賞

高校生直木賞 参加21校の代表生徒たちの声(2)

第4回 高校生直木賞全国大会

直近一年間の直木賞候補から「今年の一作」を選ぶ試みである高校生直木賞。5月7日に開催された第4回の本選考会では、21校の代表者が全国から集って議論が行われ、須賀しのぶさんの『また、桜の国で』が選ばれました。同世代の友と小説について語り合うことを経験した21人の生徒たちの感想文を3回にわけて掲載します。

 

第一回 | 第二回 | 第三回

【第二回】

成城高等学校 石井拓樹「選ぶことから『本』を考える」

筑波大附属駒場高等学校 鈴木健一郎「理解し合うことはできなくても」

豊島岡女子学園高等学校 岸さとみ「読書の奥深さ」

市川高等学校 稲葉あすか「極度の緊張と楽しさと」

茨城県立並木中等教育学校 会田侃煕「出会い」

向上高等学校 藤井夏海「語って繋がって広がって」

湘南白百合学園高等学校 小川玲未「本を選ぶ意義」


 

成城高等学校 石井拓樹「選ぶことから『本』を考える」

 私は今回、第四回高校生直木賞全国大会に参加して本当に良かったと思った。

 なぜなら、わたしが一心に求めていた、「本」についての話し合いをできたからだ。私がここでいう「本」とは、もちろん候補作品についてもそうだが、それ以上に本の本質についてだ。本質というと堅苦しいが、つまりは本自体の存在に焦点を置くことだ。

 確かに、読書会やビブリオバトルなども本について考え、話す機会であろうと思う人がいるかもしれない。しかし、私としてはこれらの企画にも増して「本」の本質に迫ることができるのが選考会の良さだと感じる。読書会では、読み合ってきた本について話し合う。 ビブリオバトルでは、各々が持ち寄った本の良さを語る。そういった企画の原点にあり、いくつかの候補作品ごとの見解という形で意見を共有しつつも、個人的な見方でもっと情熱的に作品の良さを見い出し、周囲にも発信していくことができる、それこそが選考会だと私は熱く思ってしまう。

 そして、「本」の本質を見つめる上で大事なのが、本を選ぶことだと私は思う。選ぶという仕組みが、候補作品ごとの評価や優劣だけでなく、最終的に内容とそこにあるメッセージ性などを越えて、「本」とは、といった非常に難しく深いテーマを議論させてくれるのだと私は考えた。

 これからも、私ももっと本に触れたい。

 

筑波大附属駒場高等学校 鈴木健一郎「理解し合うことはできなくても」

「話せば分かる」という言葉がある。嘘だ。僕らは自分以外の誰にもなれない。人と人は分かり合えない。ましてたった三時間半の議論で理解し合うことなど無理だ。

 今回の高校生直木賞で一つ印象深い出来事をあげるとするならば、僕は第一次選考のことを思い出す。僕の学校が選んだ作品は一つも本選に残らなかった。僕らはなぜ、同じ本を読んでいるのに違う本を選ぶのだろう。

 僕らは一人一人が違う人間で、だからこそ、言葉を使うということは難しい。自分の中に確かにあったはずの気持ちが言葉にできない。議論をしても上手く言えないもどかしさがつきまとう。誤解なく伝えることも、相手の思いを理解することもできない。結局のところ僕はただ「この本が好きだ」としか言えない。

 それでも楽しかったのだ。支離滅裂なまま、夢中になって喋っていた。理解し合うことができなくても、理解しようと手を伸ばし合うことはできる。分かり合えないことは決して絶望ではない。同じ結論にたどり着かずとも、熱意や願いは共有できる。お互いの真剣さを信じて裏切らないことはできる。そう思わずにはいられなかった。

 一つだけ、僕らが自分以外の誰かになれる場所があるとしたら、それは物語の中だ。同じ本を読んだ人とは、一度そうやって同じ世界を生きていた仲間なのだ。だから初めて会った気がしなかったのだ。もちろんそんな風に考えるのはロマンチックが過ぎるかもしれないけれど。

 

豊島岡女子学園高等学校 岸さとみ「読書の奥深さ」

 直木賞候補作がすべて読めるから! という軽い理由で参加を決めた高校生直木賞。しかし、いざ参加してみると、新たな発見の連続でした。

 とにかく同じ本を読んでも人によって感想が全く違う。校内選考の段階でも異なる意見は出ましたが、本選になると意見の違いがより顕著で、こんな解釈もあるのか! と驚くばかりでした。

 自分が思っていたことを誰かが的確に言葉にしてくれたときにはそうそうそう! と心の中で頷きまくり、思いもよらない意見が飛び出した時にはガツンと殴られたような気持ちになり、本選は感情の動きが忙しい一日でしたが、本当に刺激的で充実した時間でした。

 また、読書の楽しみ方にも変化があったような気がします。参加者の皆さんの鋭い考察を聞き、自分は今まで本を読んでも、面白い、面白くない、または好き、嫌いといった基準でしか捉えていなかったのだと痛感しました。具体的にどこが面白いのか、何が好きなのか。つまらないと思った部分でもそれはなぜなのか。そういった部分を考えてみるのも読書の楽しみだということを学びました。

 素敵な12冊の本と、読書好きな同世代に出会えて、高校生直木賞に参加してよかったなと心から思っています。一冊の本なのに読み方、受け取り方は無数にあって、それを共有しあうことでまた新たな発見が生まれる。本、そして読書の奥深さを改めて実感した高校生直木賞でした。

 

市川高等学校 稲葉あすか「極度の緊張と楽しさと」

 私が所属している文芸部に、1枚のプリントが届いた。

「高校生直木賞への参加案内」と書かれた司書の先生からの手紙だ。なんとなく気になった私は概要を聞きに行き、そして驚いた。

「高校生が直木賞候補作を読み、もう一度自分たちで直木賞を決める」

 その話を聞いて、なんと面白そうな企画だろうか、と思った。期待を募らせながら、高校生直木賞に向けて(最終候補作)6作のハードカバーを読破していった。

 遂に本番当日。私はひどく驚き、また大きな不安を覚えることとなった。

 まず、会場の雰囲気が想像を遥かに超えていた。静かに、そして真剣な目をして着席している他校の生徒。机で囲われた先に座られている、風格のある司会進行役の方。そして何より大勢のギャラリーの皆さん。こんなこと言えればいいな、あんなこと話せればいいな、なんてお気楽に考えていたことなど一瞬で消え去る程に圧倒された。極度の緊張に追い込まれたまま、話し合いはスタートした。

 色々な驚きと緊張の中やっと雰囲気に慣れてきたのは、須賀しのぶさんの「また、桜の国で」と恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」との一騎打ちのあたりだ。各高校の様々な視点から繰り広げられる圧巻の討論に、やっとまともに参加できるようになった。そこからは本当に楽しかった。たくさんの意見の中で自分の意見を戦わせる経験はあまりなかったため、とても有意義な時間となった。

 来年も開催されるならば、準備をきちんとして臨んでみたいと強く感じた。


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