『まったなし』に描かれている6篇のあらすじをご紹介します。下のタイトルを選んでください。江戸の豆知識つきであらすじが表示されます。
豆知識参考文献 「江戸のくらし風俗大辞典」(柏書房)、「江戸語辞典」(東京堂出版)、「辞典しらべる江戸時代」(柏書房)他
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町名主の跡を継いだ悪友・清十郎だが、いつまでも独り身なのは格好がつかない。自称親代わりの宗右衛門も、八木家の皆も、たぶん支配町の長屋のおかみさん達まで、清十郎に嫁がが来るのを待ち望んでいるが、西松家の支配町で祭りの寄進が集まらず、その算段もあって本人は大層忙しい。
そんな時に町名主へ困りごとの相談をしてきたのは、扇屋吉田屋。そこは清十郎が以前に仲良くしていた綺麗な娘・おときの家だ。そこで父の宗右衛門に命じられ、麻之助は清十郎と連れ立って吉田屋へと出かけた。しかし実はおときにはすでに別の縁談が進んでおり、それを妬むある人物の嫌がらせに困っているという。寸の間、気落ちした二人であったが、思わぬことから西松家の若き当主の行動が明らかになり――。扇屋 扇は暑さをしのぐ夏の季節ものだが、正月の贈答品用など、贈り物としても使われていた。扇の字紙には歌舞伎役者にちなむ柄もあり、中には役者本人のサイン入りのものあり、若い娘さんらに人気でした。 -
最近流行病の事は噂もなく、神田では押し込み一つない。米の値段も落ち着いており、大根も菜も柿、栗なども豊作だ。珍しく平穏な日々に、最近では普請や婚礼も増えて、支配町は活気に満ちていた。相変わらず清十郎の婚礼は決まらないが、極楽のごとき暇を満喫していた麻之助のもとを訪れたのは、大工の子供のお松と鉄五郎。
最近、飼ったばかりの可愛い子犬・おこげが行方不明になったという。しかもおこげだけではなく他にも二匹がいなくなったと聞いて、清十郎とともに子犬捜しはじめた麻之助だったが、途中で小火に遭遇。その混乱の中で清十郎は大八車に轢かれて足をくじいてしまう。
花嫁候補が次々見舞いに訪れて清十郎が困り果てる中、麻之助はいなくなった子犬を小火のあった場所で発見し……江戸のペット 犬や猫が一般的で、なかでも狆(ちん)は唯一の室内犬として、大名や上層町人に愛玩され、死後には墓が建てられることも。そのほか、鶯や金魚、鈴虫、マツムシなど飼育され、品評会や競技会が色々と行われていたそうです。 -
下手をすると命まで奪われる「麻疹もどき」と呼ばれる病が治まらない。おかげで町役人たちは仕事に追いまくられている。特に若くて壮健な麻之助や清十郎は、病人の所へ出張っていかなければならないが、清十郎はよりにもよってその流行病に捕まってしまう。
大店の次女で美人で算盤達者の相手と見合いをし、話がまとまりかけていたにもかかわらず、一度も相手は見舞いにきてもくれない。挙句、この縁談は破談になってしまったから踏んだり蹴ったりだ。
その顛末を話しながら夜道を歩いていた麻之助と清十郎だが、何やら雰囲気がおかしい。日の本一、数多の人が暮らすお江戸にもかかわらず辺り一面真っ暗闇だ。
構わず清十郎は八木家の事情を語り続けるも、果たしてこの世界から抜け出せるの!?疫病 江戸時代にも、赤痢、傷寒、麻疹、風疹、痘瘡、水痘、風邪などと表現された疫病がたびたび発生し、人々の命を奪ってきた。特に痘瘡(天然痘)は身分や階級を問わず幼い命を奪い、これに関わる祈りやまじないも多くありました。 -
表向きは質屋だが、その実は高利貸として悪名の高い丸三は、親友の麻之助の頼みを断りきれず、小さな子供を預かることになった。実はその男の子は、繁盛している質屋の明松屋の一人息子の万吉。おかみは万吉を生んで程なく身罷り、万吉は父の明松屋と奉公人に囲まれて暮らしてきたが、不運にも明松屋が病に取っつかれてしまう。江戸には頼れる親類がいないため、万吉の預け先を探すことを頼まれた麻之助が丸三に託したわけだが、よりにもよってなぜ剣呑な先を選ぶのか――周りはその判断を責めたてるが、ほどなくして事情が判明。明松屋の財産を狙うとんでもない男が、その全てを掻っ攫おうと登場する。一方、万吉は丸三のお妾・お虎のもとで何とか無事に面倒をみてもらっていたのだが――
人別帳(にんべつちょう) 江戸時代に諸寺に命じて作らせた現代でいう戸籍簿のことです。一家中全員の姓名・生年月日などを記し、宗門帳とも言われました。ここから外されると正式な「勘当」となってしまいます。 -
町名主である父親にも月行事(がちぎょうじ)にも勝手に裁定をしたといきなり怒られた麻之助。
身に覚えないことに驚くが、聞けば今回の騒動は縁談絡みだという。お真知、おしんという二人の娘と、長次郎という若い大工が関わっている。当初は仕立物を生業にするおしんと仲の良かったものの、頭領の娘であるお真知との縁談が決まった。
よせばいいのにお真知は自分の婚礼衣装の白無垢の仕立てをわざわざおしんに頼んだところ、縫い上がってきた新しい晴れ着には随分染みがついていて――この事件に出た裁定は、おしんがわざと染みをつけたということで一方的に反物代を弁償させるというものだった。
誰がいったいそんな判定を? 事情を調べはじめた麻之助はその人物をすぐに見つけ出すも、裁定に納得しない面々は……相対済令(あいたいすましれい) 金銀の貸し借りに関する訴訟はすべて相対(当事者間)で解決するように定めた法令のこと。あまりに金銭賃借に対しての訴えごとが多くなり、お上はその解決までとても手が回らなかったためにこうしたお触れが何度も出されました。 -
山ほど縁談を抱えていた清十郎が、突然、数多の縁談を断り、同じ町名主の娘であるお安を嫁にと望んだ。
おなごに好かれ過ぎて相手が定まらなかった清十郎だが、ついに腹をくくり八木家の嫁を決めたように思え、周囲も得心した。だがなぜか縁談が前へとぴたり進まなくなってしまう。その理由を周囲も訝しがる中で、お安のもとへとある手紙が届き始める。
その相手の名前は、おちか、お順、お紅、おしず……いずれも清十郎と仲が良かった娘たちだった。見た目の地味なお安は清十郎の相手にはふさわしくないという。
そこで直に娘たちに会って、清十郎の縁談の邪魔を考える者がいないか確かめて周ることになったのは、本人と親友の麻之助に加え、色恋絡みの嘘を山と聞いてきた丸三のお妾・お虎で――白粉(おしろい) 諺で「色の白いは七難隠す」と言うとおり、江戸でも色白は美人の第一条件。その頃の白粉は水で溶いてつけるのが特徴で、刷毛も何種類もありました。これで顔、頸、髪の生え際、襟足、胸の辺りまで白粉が塗られた様子は浮世絵などでもお馴染みです。