『光線』(村田喜代子)

光線

1,650 (税込)
発売日2012年07月12日
商品情報
書名(カナ) コウセン
ページ数 224ページ
判型・造本・装丁 四六判 上製
初版奥付日 2012年07月15日
ISBN 978-4-16-381550-3
Cコード 0093

人間の来し方、行く末を見つめる連作集

作家の村田喜代子さんは、東日本大震災の数日後に子宮体ガンが発覚。摘出手術を避け、鹿児島市で一か月間、強いX線のピンポイント照射を受けて、3か月後にガンは消滅しました。治療中、放射線宿酔でふらつく体で震災関連のニュース、福島原発の推移をテレビで見るうちに、ある不思議な気持ちが芽生えてきた、とおっしゃいます。
「文學界」でこの一年半の間に発表された連作6編のうち、「光線」「海のサイレン」「原子海岸」「ばあば神」の4編は、この村田さんの内なる震災体験から生まれました。原発からもれる放射線と、自分の下腹部にあてられる放射線が混ざり合うのを感じる、という村田さんならではの感覚、個人と社会の災厄が重なるという稀有な体験が、作品の随所で顔をだし、見事に文学に昇華されています。
「こうして6作の異なる短編の顔を見較べると、これも『地』というものの話だった。人間の生きる所は、すべて『地』によっている」(あとがきより)
本の最後に収められたのは、震災前に書かれた「楽園」。山口県のカルスト台地の地下800メートルに位置する鍾乳洞で行われる〈暗闇体験〉。一人の探検家が文中でこう言ってます。「洞窟に潜ることは、存在とか認識に関わる哲学体験であり、造物主に近づいていく創造的体験である。またその体験をしているとき、自分にとって地上は『楽園』である」。この足の下の場面が永遠に盤石であることを願い、この光あるタイトルの作品をラストにもってきました。
読売新聞、朝日新聞ですでにこの連作については取り上げられ、村田さんの新境地を示す、ターニングポイントとなる作品であることは間違いありません。

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担当編集者より

東日本大震災の2日後にガンが発覚。摘出手術を避け、鹿児島市で1か月間、X線のピンポイント照射を受けてガンは消滅したそうです。毎日放射線と向き合い、またテレビで原発事故の推移を追ううちに、自分の中に不思議な気持ちが生まれたと村田さんはおっしゃいます。個人と社会の災厄が重なった体験から生まれた「光線」をはじめとする4部作は、いまの村田さんにしか書きえない、重みと凄みを感じさせる作品です。ぜひ1人でも多くの人に手にとってほしい1冊です。(KK)

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