担当編集者より

『ハンチバック』で衝撃的なデビューを飾った市川さんの待望の第二小説集は、さらに深められた市川ワールドを堪能できる一冊になりました。
表題作「女の子の背骨」はこれまでで最も私小説的な作品。筋肉の難病を患う主人公ガゼルと、同じ病気でさらに症状が重い姉との関係を軸に、いっけん平和な家族旅行の水面下でゆれる少女の気持ちを繊細にすくいとる筆致が見事です。
「オフィーリア23号」は、性差別的なオーストリアの哲学者に心酔する女子大学院生が三島由紀夫「憂国」を原作としたポルノ映画出演を目論む、という破天荒な作品。以前インタビューで興味を持っていることについて聞かれ「哲学者オットー・ヴァイニンガー」と答えていたのはこの小説への布石だったのですね。影響を受けたと語る大江健三郎作品を思わせる文章の冷徹なドライブ感が魅力です。
カバー写真は、『ハンチバック』と同じニューヨーク在住のアーティストIna Jang氏の作品。「誤解」と題された作品の不穏な雰囲気が、ひとすじなわではいかない市川さんの小説の多面性と呼応しています。