インタビューほか

指紋に恋する「理系女子」が連続殺人に科学で迫る

「本の話」編集部

『殺人初心者 民間科学捜査員・桐野真衣』 (秦 建日子 著)

指紋に恋する「理系女子」が連続殺人に科学で迫る

――文庫書き下ろし新シリーズとなる新刊『殺人初心者 民間科学捜査員・桐野真衣』は、民間の科学捜査研究所に再就職した、婚約破棄をされたばかりの女性、桐野真衣が主人公です。指紋検出の依頼を受けたことから連続殺人事件に巻き込まれていきます。探偵事務所などは知られていますが、このような民間の機関というのは本当にあるのですか。

 実在します。そして、かなり本格的な検査をしています。たとえば、子供の親子関係を調べるDNA鑑定や、遺言状にかかわる筆跡鑑定とか。以前にとある研究所を実際に取材させていただきました。でも、この作品自体は現実に縛られているわけではありません。作中では型破りな元警察官が多く在籍し、オタク的な人物がハッキングしたりと、一筋縄ではいかない人物が集まっています(笑)。民間というのは、これまで多く書いてきた刑事や検事とは立ち位置が違います。犯人を捕まえたり有罪を立証するのが仕事ではないわけです。ではどこに小説としての落としどころをもっていくのか、が面白いところだと思っています。

――秦さんの小説らしく、凝った構成になっていますね。そのひとつが女子高の科学部の部活日誌です。

 日誌の挿入や殺人者目線のシーン、どういうプロローグから入るかなど、小説の「仕掛け」部分が決まらないとなかなか書けない質なので、そこにはずいぶん時間をかけました。

――主人公の真衣や“本家”警視庁科捜研の科学捜査官・松島ゆかりは「理系女子」とでもいうノリでしょうか。

 女子高の科学部については、ロケットを打ち上げている女子高生たちを実際に取材したことがあるんです。女子高生に科学の面白さを伝えようという秋田大学の企画で、実際に能代平野で彼女たちは立派にロケットを飛ばしていました。燃料班、缶サット班などに分かれて、賑やかにロケットの話をしているのですが、これがちょっと見、ただの楽しそうなガールズトークに見える(笑)。それが実に魅力的で。この本のなかで、真衣たちが指紋とデートする夢を見たり、デオキシリボ核酸の怪獣に襲われる夢を見たりするんですが、そんなキャラクターが思い浮かんだのも、その取材が原点だと思います。彼女たちにはとても感謝しています。

――昨夏のTVドラマ「サマーレスキュー」など脚本も数多く手がけられています。小説でも会話が生き生きしているのは脚本の影響もあるのでしょうか。両者の違いはありますか。

 かなり違いますね。役者に言わせて面白いセリフと、小説の読者1人で読んで面白いと感じる会話とは別だと思っています。シナリオは設計図です。監督や役者さん、たくさんのスタッフがいろんなプランを持ちより、話し合い、肉づけをして、徐々に作品が立体化していきます。なので、シナリオの場合はあえて余白を作ります。いろんなアイデアが付け足される余地をあえて作るわけです。小説の場合はシナリオと違い、書き上げたものがイコール最終形なので、登場人物の言葉や動き、衣裳、小道具、その日の天気に至るまで、すべて自分で決めなければいけません。自分以外に誰も何も足してくれない。ですから、シナリオより執筆時間ははるかにかかります。ただ、小説には、自分で全てのリスクを背負える魅力がありますね。出来が悪かったら、それは100%自分の責任。そういう分かりやすさが気持ちいいと思っている部分は確かにあります。

――篠原涼子さん主演で映画化もされた『アンフェア』の原作「刑事 雪平夏見」シリーズなど、数多くの小説シリーズを手がけられていますが、新シリーズ第1作となる『殺人初心者』の手応えはいかがですか。

 とても自由に楽しく書きました。「秦さんは、どういう小説が面白いと思っているんですか」と聞かれたときに、その答えになるような小説を書いたつもりです。「雪平夏見」や「ダーティ・ママ」と同じものを書いていてもつまらない。もちろん、クリエイターとしてとんがったものは作りたい。その辺りの、自分の中での差別化が難しかったです。この手の小説だと連続殺人鬼がいて、正義感の強い心の折れない主人公がいて、執念の捜査で最後の対決に……みたいな分かりやすい構図には実はなっていないです。そういう分かりやすさから「どうひねるか」にこだわりました。「そ、そこに着地するのか!?」と読者を驚かせたいといつも思っているんです。今回も大きな仕掛けを二つ使っているので、それが読者に見破られず終盤までいけるかが勝負だと思っています。とにかく、たくさんの方に手にとっていただき、楽しんでいただけると嬉しいですね。

殺人初心者

秦 建日子・著

定価:650円(税込) 発売日:2013年03月08日

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