「オール讀物」が「文藝春秋」の臨時増刊として生まれたのが、昭和五年(一九三〇年)。昭和六年に月刊誌となり、野村胡堂の「銭形平次捕物控」の掲載が始まった。だが、雑誌の売れ行きは芳しくなく、昭和七年には廃刊の危機を迎えた。このとき、紙面刷新のため、「銭形平次」も一度は中断が決められたが、野村胡堂は、毎回読み切りの形での継続を、新たに編集長になった永井龍男に申し出た。
〈向う一年間、無原稿料で結構だから、引続き連載させて欲しいという真剣なものだった。無思慮無鉄砲な私にも、筆者の気合が察しられて、やむなくそれにしたがうことにした〉(永井龍男「『銭形平次』誕生のころ」朝日新聞・昭和三十八年四月十六日付)
かくして「銭形平次」は昭和三十二年八月号まで続いた。全部で三百八十三編。ギネスブック級の記録である。
写真は昭和二十六年撮影。
〈朝食は八時。浅草「鮒金」の佃煮、越後味噌の味噌汁が食卓に必ず並んだ。新聞を読みながら、執筆する「銭形平次」の構想を練るのが毎朝の日課だった〉(「諸君!」平成十四年=二〇〇二年十月号より)
昭和三十八年没。
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