別冊文藝春秋

やっべぇコレ答えるのダセェ、とすぐ脇へ避けられてしまうような、そんなエッセイ集になってくれることを祈る。

文: 朝井 リョウ

朝井リョウ「風と共にゆとりぬ」

©露木聡子

 サイン会をすると、読者の方が「『桐島~』が好きです!」「『何者』が好きです!」等、私の著作の中で好みの作品を宣言してくださることが多い。勿論どんなタイトルを挙げていただいても嬉しいのだが、「あの……一番好きなのはエッセイ集なんです……すみません……」となぜか謝る人に出会うと、私は思わずニヤリとしてしまう。

 おすすめの本を教えてください。取材や収録などでそう尋ねられると、私はカッコつける。もちろん本当にその本が好きだという気持ちもあるが、どこかで、この本を紹介すれば自分の印象がよくなるのではないか、と鼻の穴を膨らませてしまうのだ。実は、何の教訓も格言も価値観の反転も得られない本が好きであるということを、何だかタイトルがかっこいい洋書とかでごまかしてしまう自分を滅したい。

 私は、エッセイを書くことが本業ではない人が、完全に気を抜いて書いたエッセイが好きだ。そのような場合、内容は本当にくだらないことが多い。読書とは人生に何か大切なことを教えてくれるもの等という出来れば信じていたい美しい定説が見事に崩される瞬間が大好きなのだ。そして、その瞬間が好きな人と、顔を赤くしながら、本当に好きな本についてカミングアウトしあいたい。

 おすすめの本を教えてください。あなたがそう訊かれたとき、一度頭の中に思い浮かぶけれど、やっべぇコレ答えるのダセェ、とすぐ脇へ避けられてしまうような、そんなタイトルにこの『風と共にゆとりぬ』がなってくれることを祈る。

「別冊文藝春秋 電子版9号」より連載開始

別冊文藝春秋 電子版9号(通巻325号/2016年9月号)

定価:※各書店サイトで確認してください
発売日:2016年08月20日

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