高校生は『くちなし』のどこに共感した? 高校生直木賞 前回受賞者・彩瀬まるさん講演会レポート(2)

高校生直木賞

高校生直木賞

高校生は『くちなし』のどこに共感した? 高校生直木賞 前回受賞者・彩瀬まるさん講演会レポート(2)

文: 「オール讀物」編集部

第5回 高校生直木賞全国大会

『くちなし』(彩瀬まる 著)

――ありがとうございます。ここからは、彩瀬さんご自身についてのご質問です。
幼少期に海外での生活体験があるとお聞きしましたが、そのことから受けた影響は、作品の中に感じていますか。

彩瀬 海外で暮らしたことで、「酷いこと」や、逆に「豊かなこと」「すばらしいこと」「きれいなもの」といったことを想像するときに、その上限が広がったのではないかと感じています。思考の範囲を広げてくれましたね。

 私は5歳から2年間、アフリカのスーダンで暮らしました。まだ南北が分裂して南スーダンが独立する前ですね。私は父の仕事で行ってるので衣食住には苦労しませんが、自分と同年代か、もっと下の子どもたちが、道端で物乞いをしてるんです。それを5歳の頃に見て、生まれた場所が違うだけでこんなふうに大きな差ができてしまうということに大きなショックを受けたんです。ただ、そのショックをなかなか言語化できなくて、自分の中でずっと引っかかっていた。中学2年生の時、父が古いタイプライターをくれたので、それで初めて小説を書いたのですが、小説なら、自分の中で引っかかっていたものを表に出せると思ったんです。それで、生まれたときから背中にあざがあって、そのあざによって社会的な身分が変わってしまうというファンタジー世界の話を書きました。

――高校生のときに、彩瀬さんが小説以外に取り組んだ創作活動はありますか。

彩瀬 美術部に入っていました。高校では美術部とバスケ部に入ってたのですが、美術部に、とても絵のうまい先輩がいて、私とは発想も何もかもが違ったんです。絵を追いかけていたら私は一生この人に勝てないと思って、じゃあ、ほかに何かできないかと、小説にシフトしました。

――今日は、自分でも小説を書いているという高校生もいるようで、執筆にまつわる質問を聞いてみたいと思います。まず、キャラクターを書くにあたって気をつけていることはありますか。

彩瀬 どんな小説を書くかによっても変わってくると思うのですが、私の場合は登場人物を記号化しないことに気をつけています。というか、そもそも記号化が下手なんです。物語の中で登場人物を動かしていくうちに、時間の経過や話している相手によって、同じ人物でも違う側面がどんどん出てくるように感じているので、簡単にキャラクターを把握したつもりにならないよう気をつけています。
でも、これは私の書き方で、もっと端的な特徴でキャラクターを把握しやすくしたほうが、展開が早く、読みやすくて楽しい物語になると思います。なので、自分がどういう読み心地のものを書きたいのか考えたあとに、人物をどのくらいの密度で書き込むのかを決めるのがいいのではないでしょうか。

【次ページ 「恋愛の成就」のタイミングとは】