高校生は『くちなし』のどこに共感した? 高校生直木賞 前回受賞者・彩瀬まるさん講演会レポート(2)

高校生直木賞

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高校生は『くちなし』のどこに共感した? 高校生直木賞 前回受賞者・彩瀬まるさん講演会レポート(2)

文: 「オール讀物」編集部

第5回 高校生直木賞全国大会

『くちなし』(彩瀬まる 著)

――では、他に質問のある方はいらっしゃいますか?

生徒B 僕が普段疑問に思っていることで、『くちなし』のテーマに近いものがあったので質問します。先ほどの質問でも出てきた愛という概念と、人が持っている性欲というものは、同一視してもいいのか、もしくは、本来、相反するものなのか。愛と性欲ってどういう関係性にあるのかいつも疑問に思うのですが、彩瀬さんはどう思いますか。

彩瀬 それについては同年代の作家さん達ともよく話題に上がります。愛情を追求する物語が、時に性欲を否定するような文脈になってしまっている気がする。愛情の対象に性的なアプローチをしない人の方が、良い人のように受け取られることがある。過去に性的な体験があるという設定にするだけで、そのキャラクターがまるで特別に性に奔放であるかのようなフィルターがかかってしまう。書き手も読み手も、「性欲」をどこか後ろめたく悪いものとして扱いがちというか……そうではなく、取り扱いに注意は必要でも、性欲がもっと楽しく明るい、他者へと向かう生きた心の動きの一つとして豊かな形で愛情に抱合されたらいい、そういう話をお互いに書けたらいいね、とよく話し合っています。

 なので、愛と性欲は相反するものだとは、私は思っていません。逆に、性欲があるから愛があるというわけではないし、性欲がないから愛がないというわけでもないと考えています。こういうふうに、性欲が愛を傷つけるかもしれないという疑義が生まれている時点で、今この社会で扱われている性欲の描かれ方が、よいものではなのではないのかもしれませんね。そういう欲望があることが、双方の喜びに繋がるような物語が生まれてほしいし、そういうものを作れるように努めていきたいなと思っています。これは、これから大きな課題になっていくことだと思うので、ぜひ一緒に考えてくださったら嬉しいです。

生徒B はい。ありがとうございました。

彩瀬 『くちなし』は、読んでいて率直に楽しい小説ではないので、自分でもどうして高校生直木賞を受賞したのだろうと驚いていました。でも、昨年の受賞後、選考の経過や会場で出た意見を聞いて、自分が高校生の頃に何を考えて、どんなものを求めて生きていたかを忘れていたと、とても反省したんです。今日も、皆さんの質問に答えながら、皆さんが読書を通して、簡単に答えの出ないことに対して、挑み、考え続ける姿勢を眩しく感じました。今日は本当に、ありがとうございました。