高校生直木賞

高校生は『くちなし』のどこに共感した? 高校生直木賞 前回受賞者・彩瀬まるさん講演会レポート(2)

文: 「オール讀物」編集部

第5回 高校生直木賞全国大会

――次の質問ですが、その時々で話題になっている社会的な問題を扱おうと意識していますか。

彩瀬 社会的な問題は、意図的ではないけれども、小説の中へ入り込むものなのではないかと思っています。例えば、東日本大震災の後に出た作品は、直接的には描いていなくても、東日本大震災を前提にした作品が多いということをおっしゃっていた評論家の方がいました。意図するしないにかかわらず、やはり、そういうものは入ってくるのだと思います。

――ちなみに、彩瀬さんは旅行で訪れた福島で東日本大震災で被災されて、その経験をルポルタージュとして書かれていますね。これについてもいくつか質問が来ているのですが、被災した経験を書かれた『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』から、震災で友人を失った女性を描く『やがて海へと届く』を書くまでに、彩瀬さんの中でどのような変化があったのでしょうか。何か切り替えたのか、あるいは切り替えずにルポルタージュから小説へと執筆に入っていったのか。

『くちなし』(彩瀬まる 著)

彩瀬 私は旅行中に福島県沿岸部で被災したのですが、交通網も止まって、しばらくは避難所に釘付けになってしまいました。現地の方に助けてもらいながら、1週間後に何とか帰ってきたら、編集者から連絡があって、沿岸部で何があって、どういう状態になっているのか何も情報が入ってこない。書けることがあったら書いて欲しいと依頼をいただいたんです。これはルポルタージュで、報道的な意味合いを強く出したほうがいいだろうと思って、『暗い夜、星を数えて』は、私個人の話をなるべく避けました。

 一方、約五年後に出した『やがて海へと届く』では、危機に直面したときに、自分が何を感じて、何を無念に思ったのかということも含め、パーソナルな部分をきちんと消化しようと思って書いた作品です。ルポルタージュと小説で、社会的な役割が違うという意識があったので、この二つの作品が必要になりました。

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