――たとえば最近だと、『夜汐』はどうですか。幕末の話なので意外でした。ロードノベルとしても面白く読みましたが。
東山 そう、ロードノベルとして書いたんです。舞台を昔にしたほうが、いろんな不思議なものが出せるような気がして。あれは芥川龍之介の『悪魔』という掌篇の影響です。短い小説で、伴天連うるがんという奴が悪魔が見える目を持っている。お姫様のお輿の上に悪魔を見つけて捕まえると、その悪魔がボロボロ泣く。「自分は悪魔だからお姫様を堕落させないといけない。そんなことしたくない」「でも悪魔だから、そんなことしたくないと思えば思うほどしたいんだ」と言うだけの話なんですが、こういう悪魔をモデルにした殺し屋を書いたら面白いだろうなというのが出発点だった気がします。
――かと思えば、近未来大作『ブラックライダー』は一篇の詩がきっかけだったとか。
東山 スティーヴン・クレインの「THE BLACK RIDERS AND OTHER LINES」という詩が出発点でしたね。最初に読んだ時にすごく格好いいと思って、ずっと意味を考えていて。そのうち、この詩を冒頭に引用して、それにふさわしい本を書きたいなって。最初は全然あんなに長くなるとは思っていなかったんです。でも、小説というのは自分で無理に終わらせたらいけないと思い、物語が勝手に終わるまでとことん付き合おうと覚悟を決めたら、あの長さになりました。
――執筆中、あえて自分をアンコントロール状態においておくという。
東山 そうですね。自分が書く前から予測できることは、読んでいる人も予測できるかもしれないし、僕も書いていて面白くない気がします。それよりも、自分の中にこんな一文があったのか、と思うような文章とか、思いもしなかった主人公の一言と出会った時に、報われた感というか、書いててよかったと思いますね。
――普段の執筆に欠かせないものは。
東山 必ず音楽をかけています。書いているものに合わせますが、わりと僕が書いていて気持ちいいのはキューバとか、メキシコとか、中南米系の音楽ですね。そういう音楽のおかげで想像力が広がるというか、破天荒なものを書いてもいいような気になります。
――次はどんな話を考えていますか。
東山 現代が舞台で、日本と台湾と中国が出てきます。主人公は五十歳近い男。新聞連載です。
――新聞連載の場合も、数か月はやく書き上げるんですか。
東山 はい。実は、連載が始まるのが来年の4月か5月にもかかわらず、もう書き終えています。すごいでしょう(笑)。
――ええっ! では、もうさらに次のテーマのことを考えているわけですね。
東山 そうですね。ずっと、恋愛小説も書いてみたいなと思っていて。でも、まだどうしたらいいのか分からない。ずっと考えているところです。