掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

作家の書き出し

作家の書き出し

掃き溜めのような場所に宿る哀愁、僕が求めているものはそういうもの――東山彰良(前篇)

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

東山彰良「作家の書き出し」

子どもは大人の駄目なところをよく見ている

――新作『小さな場所』は現代の台湾、台北の刺青店が立ち並ぶ紋身街が舞台です。そこの食堂の9歳の息子を視点人物に、周囲の人間模様が描かれていく。拝読して、以前東山さんがV.S.ナイポールの『ミゲル・ストリート』が面白かったと話されていたことを思い出しました。

東山 そうなんです。最初に、どこか場所を起点として物語を連作短篇で作っていこうという話になった時、当時の担当編集者が「これが好きじゃないか」と送ってくれた本のなかに『ミゲル・ストリート』がありました。カリブ海のトリニダード・トバゴの町が舞台で、子どもたちがいっぱい出てきて、すごく面白くて。台湾を舞台にこんな感じで書くとしたら場所はどこだろうと考えて、西門町に紋身街があったな、と。

 それで、「猫」がテーマのアンソロジー(『猫が見ていた』文春文庫)に短篇を1本入れることになった時、試しにその場所を舞台にして書いてみたのが始まりです。

――最初に場所が決まったということですね。

東山 最近、物語の場所ということをよく考えるんです。よく作家が、主人公の名前がピタッと決まらないと物語が動かない、などと言いますよね。なかなか話が進まなかったけれど、主人公の名前を変えたら動き出した、とか。場所についても、そういうものがあるんだろうなと思います。

 僕は台湾に生まれて、今は福岡に住んでいて、たとえば東京を舞台にして書くと自分でも噓っぽいなと感じたりするんですよ。九州が舞台だと、言葉も分かるし使い方も分かるから、しっくりくる感じがある。そういうこともあり、僕が安心して書けるのは、九州、あるいは台湾か、もしくはまったく架空の場所だろうなと思っています。

――主人公を9歳の少年にしたのはどうしてですか。

東山 子どもの目線からなら、大人同士の関係では見えにくいところも書けるかもしれないと思いました。前に『僕が殺した人と僕を殺した人』を書いた時は女性に対して興味が出てくる少し前の年齢にしようと13歳の主人公にしましたが、今回さらに下にしたのは、もっと大人の圧力を感じる年頃にしたかったから。10歳以降になると反抗期にもなってくるけれど、9歳くらいはまだ反抗するちょっと前。身体も小さいからお父さんにぶん殴られてもどうしようもない。それに、よく「子どもって正直だからね」って言うじゃないですか。そんな感じの子にしたかったんです。

――主人公は大人の駄目なところもよく見てますよね。観察眼がある。

東山 子どもって大人の駄目なところを、逆に格好いいと思っていたりするんですよね。自分を振り返ってもそうでした。僕のおじさんで、ものすごく格好よく手洟をかむ人がいたんです。矢のように洟を飛ばせるおじさんに憧れて練習したけれど、手をドロドロにしただけでした(笑)。

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小さな場所東山彰良

定価:本体1,500円+税発売日:2019年11月14日