――それで自然と、ジャンルとしてミステリーを選んだんですね。
深緑 そうなんです。ミステリーズ!新人賞に応募した短篇「オーブランの少女」は、書こうとした長篇の作中作になるはずだったものなんです。その長篇は現代が舞台で、警察が出てきて、事件の犯人と思われる老婆か誰かの過去を探っていくと「オーブランの少女」が出てくるという。そういう長篇をぼんやり考えていた時に、桜庭さんがミステリーズ!新人賞の選考委員をされていると、しかも募集しているのは短篇だと知って。一攫千金と桜庭さんとを比べて桜庭さんに軍配が上がり、短篇の部分だけを抜いて投稿しました。
投稿した後でミステリーズ!新人賞の募集要項に「本格ミステリー」とあるのに気づいて、「えっ、それって何?」となり、調べてもよく分からなくて「もういいや」となって。1次選考を通ると思えなかったので、東京創元社から結果通知の手紙が来た時も、どうせ落ちていると思って封筒を雑にビリビリ破いたんです。まだ持っているんですけれど、その時の私の心理状態がよく表れています(笑)。それが「通過しましたよ」っていうお知らせだったんですけれど。
――そして佳作入選して、その後刊行された短篇集『オーブランの少女』には、昭和初期の日本やヴィクトリア朝のイギリス、架空の北の国といったいろんな舞台、いろんなテイストの短篇が幅広く収録されていました。
深緑 アイデアだけならいくらでも出せるんです。それを小説にするのはまた別の技術なので、死ぬまでにいったい何冊本にできるんだろうって。いざとなったらアイデアだけばら売りしようかな、とか(笑)。
――『この本を盗む者は』のように空想で書くものと、『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』のように綿密な取材をし、史実に基づいた話を書く時とでは、ご自身の中でどんな違いがありますか。
深緑 たぶん、『コック』や『ベルリン』も、話を補強するために取材をしているに過ぎなくて、出発点というか、想像力を使う筋肉は基本どれも一緒です。今はソ連のコムナルカとか書きたいんですけれど、話を補強するためのロシア文化についての勉強が足りていないので、書けるのがいつになるのか分からなくて。