「小説家になれ」と言われて、ポカンとしました
――小さい頃は映画に関わる仕事に就きたいと思っていたとか。
深緑 そうです。映画とか、ピアノとか、絵とか表現方法はいろいろあって、その何かで発散したいと思っていました。でもどれもはまらなくて、「なんでだろう」と。その一方で、ノートに小説を書いていたんですよ。物語を書くことはあまりにも自分にとって基本中の基本すぎて、それが表現方法だと認識していませんでした。
――ずっと探していたものが身近にいたという、青い鳥みたいなものですね(笑)。
深緑 そう、ここにいたのか、みたいな(笑)。高校の作文の課題で私が小説を書いてしまった時も、先生に「お前は小説家になれ」と言われてポカーンとして。「何言ってるんだ」って思っていました。
――その作文、たしかインパクトのある書き出しでしたよね。
深緑 近未来SFで、性別を問わず誰と結婚しても良い時代設定で、第一文が「僕の父さんは精子だ」から始まる話でした。もし自分が先生でも、そんなことを書いてくる子には小説家になれと言うと思いますが、その時は想像もしませんでした。
――卒業後、すでに離婚されていたお母さんが喫茶店を始められたのだけどうまくいかず、深緑さんもアルバイトを掛け持ちして、そのなかで書店員になったとか。小説の投稿をしたのもその頃ですよね。
深緑 TSUTAYAのレンタルビデオ店兼書店に勤務していました。途中で引っ越しをしたので一回店舗が替わっていますが。その頃に、ミステリーズ!新人賞の選考委員に桜庭一樹さんがいると知って、ちょっと応募してみようと。
その前に、「よし、小説をちゃんと書こう」と思った動機として、お金に困っていたということがありました。母の喫茶店経営でできた借金もあるし、家の家賃もあるし、親の面倒も見なきゃいけなくて。週6で朝9時から夜中の1時まで働くことを続けていたら、両方の鼻から血がダーッと出て1時間止まらなかったりして、鬱病とパニック障害もやっちゃって。このまま労働していれば借金は返せるかもしれないけれど、その前に私の身体がだめになるかもしれない、じゃあ一攫千金、と思ったんです。『このミステリーがすごい!』大賞か江戸川乱歩賞に応募すれば、賞金が1000万円もらえるかもしれない、って。