(前編「本を盗むと、呪いにかかる!? 物語の世界に迷い込んだ少女は……」を読む)
そこに物語が見えるから、書くだけなんです
――それであんなにぐっとくる結末になるとは……。ちなみに深緑さんはミステリーズ!新人賞に佳作入選してデビューされていますが、ミステリー作家を目指していたわけではないんですよね。幅広い作風で書ける方だし、小説のジャンルに対して、今どんな気持ちでいるのかな、と。
深緑 ジャンルに関しては、私は「檻に入れられると死ぬ獣」なので、ただ自分が面白いと思ったものを書いていきたい。
とりあえず今は、「自分のメンタルがテンション高い状態でいられるものを優先的に書こう」というモードになっています。
その話と繫がるかわかりませんが、ジャンル以前にそもそも物語という存在を自分のなかで問い直していて。端的に言うと「今の人類は物語を必要としているのかな」みたいな。確かにいつだって人類は物語を必要としていますが、現代はSNSで事足りちゃうでしょう。友達や趣味が合う人の日々の様子や考えを読めばもう満足できる時代に、あえて趣味が合うかもわからない作家が書いた架空の物語を読む意味は、どこかにまだ残っているのかなと。
物語って、噓だったり空想だったり妄想だったり、手品みたいなものだなと思うんです。こんな私の妄想でお金もらって良いのかなという疑いは今もあります。物語性をつけるというのは、何かや誰かを消費する行為でもありますし。
それに私は市場に応えられる本が書けない。はやりがわからない。自分の持っている能力って、もしかしてすごく古いものなんじゃないかなという気もしていて。
――能力が古いというのは?
深緑 語弊があるかもしれませんが、物語って文字が存在していない太古からあって、私が持っている作家としての能力って、そっちに近いんじゃないかなと。世の中に物申すとか、需要に報いる内容のものとかではない。その場でぱっとお話を思いついて「これはね」って話しだすようなことが私の能力で、それって古いというかオーソドックスというか、基本中の基本というか。私のマネージャーは「深緑野分はストレートティーなんだ」と評してましたけど。