ギリギリの生活の中で……「作家」の才能に目覚めた瞬間

作家の書き出し

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ギリギリの生活の中で……「作家」の才能に目覚めた瞬間

インタビュー・構成: 瀧井 朝世

深緑野分インタビュー(後編)

――コムナルカって何ですか?

深緑 ソ連の集合住宅です。新潮クレスト・ブックスから出ているクセニヤ・メルニクの『五月の雪』(小川高義訳)の最初の一篇(「イタリアの恋愛、バナナの行列」)にはコムナルカの生活が結構詳細に書いてあります。あとゲオルギイ・コヴェンチューク『8号室 コムナルカ住民図鑑』(片山ふえ訳)とか。コロナ禍だとあっという間にクラスターが発生しそうな生活環境で、「シャワー浴びるわ」「ちょっと待って、これから料理するんだから」……みたいな感じの集合住宅があるんです。私、そういう集合住宅が好きみたいで。

――それが、テンションが上がる題材なわけですね。

深緑 テンション上がります。自分もマンション育ちで、もともと集合住宅に愛着があるんです。日本の団地にも興味があって、そっちはいつか子ども向けの小説として書きたいなと考えています。『長くつ下のピッピ』の主人公ピッピみたいな、ちょっと元気すぎるタイプの女の子が団地のみんなを引っ搔き回すような話。

――それはすごく読みたいです! その前に次の著作は、『別冊文藝春秋』で連載されていた『スタッフロール』になりますか。

深緑 はい。映画の特殊造形とCGの話で、過去と現在が出てくるんですけれど、現代篇がなかなかうまくいかなくて。連載分から合わせるとたぶん、第4稿くらいになっているんですが、最近ようやく突破口が見つかって。

 その後は、『小説すばる』で書いていた短篇集が出る予定です。これは「男のイヤミス」として書き始めたもので、主人公は全員男性ですが、舞台はいろいろ。1本目は日本の話、2本目がたぶん英語圏、3本目がどこか分からない話。4本目はストーカーvs盗撮魔。5本目はアジアのどこかで、6本目は近未来の、ほとんど海に水没している国の話です。

 他にも書きたいものはいろいろあるので、がんばって形にしていきたいですね。

ヘアメイク:岩井裕季


ふかみどり・のわき 1983年神奈川県生まれ。2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短篇集でデビュー。15年に刊行した長篇小説『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞7位、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』では第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞3位、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補となった。

別冊文藝春秋 電子版35号(2021年1月号)文藝春秋・編

発売日:2020年12月18日