政府推計によると、2025年には認知症者の数は約700万人となり、65歳以上の人の約20%が認知症だという。
いまの時代、認知症と宣告されることほど避けたいものはない。
それは「認知症になれば、何も分からなくなる」という思いこみがあるからだ。
長年、認知症当事者を多く取材してきた著者のノンフィクション作家、奥野修司氏は、そうした古い認知症観を捨てなくてはならないと説く。
認知症の人も私たちと同じような感情を持っており、楽しければ笑い、傷つけられたら悲しむし、怒る。
そして多くの当事者が、記憶が失われていくことにおびえている。
そもそも、認知症の約6割、80歳以上に限れば8~9割を占める「アルツハイマー型認知症」は病気なのか?
老年精神医学の権威、東京大学名誉教授の松下正明氏は「正常加齢者とアルツハイマー型認知症者の脳に質的な差異はなく、加齢と連続した状態とみなしたほうがいい」という。
つまりアルツハイマー型認知症とは、一部の人だけが発症する「病気」ではなく、脳の老化現象なのだ。
老化は誰も避けられないし、記憶力や判断力、実行能力といった認知機能が低下していくのは自然なこと。
しかし、その心や人格まで失われることはない
そうした認識が多くの人に広がっていけば、認知症になってもつらい思いをしなくなるだろう。
大事なことは、家族や地域が力を合わせて支え、認知症になっても生きていける社会を作ること。
認知症の人を介護する家族を悩まるのは、暴言・暴行や徘徊(はいかい)、妄想といった「周辺症状」だ。
本書では、専門家の助言を得て、家族が接し方、考え方を変えたことで、周辺症状が改善した例を紹介する。
また、認知症対策の先進地域の事例を通じて、地域で認知症の人たちを支えている事例も紹介。
認知症に対する考え方を大きく変える一冊だ。
●目次
第1章 認知症の世界をのぞく
重度認知症の人に心のうちを書いてもらっているデイケア施設がある。そこに書かれた当事者の心のメッセージを読んだ著者は衝撃をうけた。「認知症になれば何も分からなくなる」とされているが、記憶力は衰えても、感情の動きや人格は変わらないことが分かったからだ。
第2章 認知症の人のこころを読む
私たちが認知症を恐れるのは、記憶がどんどん消えていくからだろう。じつは認知症の人たちも、自分の物忘れを恐れ、不安を感じている。そんなとき、「しっかりしてよ」などと家族から言われたら、どんな思いになるのか。当事者の声に耳を傾け、メッセージを読みとくことで、その思いに迫る。
第3章 周辺症状は”病気”の症状ではない
認知症の人を介護する家族を悩まるのは、認知機能の低下によっておきる暴言・暴行や徘徊(はいかい)、妄想といった「周辺症状」である。なぜ、こんな行動をとるのか。その背景には、当事者それぞれの事情や思いがあった。
第4章 家族に何ができるか
認知症の人サポートは主に家族だが、互いの思いがすれ違うことも少なくない。医療や介護の専門家の助言を得て、家族の接し方、考え方を変えたことで徘徊、暴言などが改善した例、介護する際の心がまえを紹介する。
第5章 後期高齢者の認知症は病気ではない
人間だれしも年をとれば、記憶力や理解力などは低下し、80歳代を過ぎると、正常な加齢変化でも認知症との区別はつかなくなる。一部の人に症状があらわれる心身の異常を「病気」だとするなら、高齢になれば避けられない認知症は果たして病気といえるのか。二人の専門家の言葉から考察する。
終章 神に近くなった人
認知症であろうが、そうでなかろうが、人間は生きるため何か熱中するもの、楽しめるものが必要ではないか。認知症対策の先進地域として知られる静岡県富士宮市の例などを参考に、認知症になっても当たり前に生きられる社会のあり方を考える。
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