書名(カナ) | コウカイノケイザイガク セカイヲカエタイニガイユウジョウ |
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ページ数 | 544ページ |
判型・造本・装丁 | 文庫判 |
初版奥付日 | 2022年02月10日 |
ISBN | 978-4-16-791838-5 |
Cコード | 0198 |
「人間の直感はなぜ間違うか?」。その命題を突き詰めてあらゆる学問の常識を覆したのは、2人の天才心理学者だった。生い立ちも性格も全く違うカーネマンとトヴェルスキーの共同研究は、やがて経済学の分野にも革命を齎(もたら)すのだが……。『マネー・ボール』で著者が見落としていた先に隠されていた、感動のヒューマン・ドラマ。解説・阿部重夫
「ぼくらは友だちだ。きみがどう思っていようと」
不合理な人間モデルを前提とした行動経済学を生み、世界を永遠に変えた、2人の天才科学者の友情と別れ
世界的ベストセラー『ファスト&スロー』著者にして、
ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマン。
華やかに見える彼の人生には、決して欠かすことのできない共同研究者がいた。
彼の名はエイモス・トヴェルスキー。
カーネマンはこの悲運の天才を愛し、そして激しく嫉妬した――。
■序 章 見落としていた物語
野球界にはびこるさまざまなバイアスと、それを逆手にとった貧乏球団のGMを描いた『マネー・ボール』。その刊行後、わたしはある批判的な書評を目にした。「著者は、野球選手の市場がなぜ非効率的なのか、もっと深い理由があることを知らないようだ」。その記事には2人の心理学者の名前が挙げられていた。
■第1章 専門家はなぜ判断を誤るのか?
あるNBAチームのGMは、スカウトの直感に不信感を抱いていた。彼らは自
分にとって都合の良い証拠ばかりを集める「確証バイアス」に陥っていたのだ。彼らの頭の中では、いったい何が起きているのか。それは、かつてダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが直面し、解き明かした問題だった。
■第2章 ダニエル・カーネマンは信用しない
ナチスからの過酷な逃亡生活を経たダニエルは、終戦後、独立戦争さなかのイスラエルに向かった。戦争中の体験から「人の頭の中」に強い興味を抱いた彼は、軍の心理学部隊に配属される。そこで課せられたのは、国家の軍事力を高めるべく、新人兵士の適性を正確に見抜く方法を作成せよという難問だった。
■第3章 エイモス・トヴェルスキーは発見する
高校卒業後、イスラエル軍の落下傘部隊に志願したエイモス。闘士として戦場を駆け回った彼は、創設直後のヘブライ大学心理学部に入学する。「CよりB、BよりAが好きな人は、必ずCよりAが好き」という人間像を前提とした既存の経済理論に疑問を持った彼は、刑務所の囚人を集めてある実験を行なった。
■第4章 無意識の世界を可視化する
人間の脳は無意識のうちにどんな働きをしているのか。その研究にとりかかったダニエルはやがて視覚に辿り着く。人の瞳孔は、好ましいものを見ると大きくなり、不快なものを見ると小さくなる。そしてその変化のスピードは、人が自分の好みを意識するより早かった。彼は、目から人の頭の中をのぞき始めた。
■第5章 直感は間違える
「人の直感は、統計的に正しい答えを導き出す」。長らく信じられてきたその通説を打ち破ったのは、ヘブライ大学で出会ったダニエルとエイモスの二人だった。たとえ統計学者でも、その直感に頼った判断はいとも簡単に間違うことを証明した二人の共同論文は、それまでの社会科学に反旗を翻すものだった。
■第6章 脳は記憶にだまされる
専門家の複雑な思考を解明するため、オレゴン研究所の心理学者たちは医師に簡単な質問をして、ごく単純なアルゴリズムを作成した。だが、手始めに作られたその「未完成のモデル」は、どの有能な医師よりも正確にがんの診断を下せる「最高の医師」になってしまった。いったいなぜそんなことが起きたのか?
■第7章 人はストーリーを求める
歴史研究家は偶然にすぎない出来事の数々に、辻褄のあった物語をあてはめてきた。それは、結果を知ってから過去が予測可能だったと思い込む「後知恵バイアス」のせいだ。スポーツの試合や選挙結果に対しても、人の脳は過去の事実を組み立て直し、それが当たり前だったかのような筋書きを勝手に作り出す。
■第8章 まず医療の現場が注目した
北米大陸では、自動車事故よりも多くの人が、医療事故で命を落としていた。医師の直感的な判断に大きな不信感が漂う中、医学界はダニエルとエイモスの研究に注目。医師の協力者を得た二人は、バイアスの研究を次々と医療に応用し始める。そしてダニエルは、患者の「苦痛の記憶の書き換え」に成功する。
■第9章 そして経済学も
「人は効用を最大にするように行動する」。この期待効用理論は、経済学の大前提として広く受け入れられてきた。だがそれでは、人が宝くじを買う理由すら説明できない。その矛盾に気づいたダニエルとエイモスは、心理学の知見から新たな理論を提唱する。その鍵となったのは、効用ではなく「後悔」だった。
■第10章 説明のしかたで選択は変わる
六百人中、二百人が助かる治療法と、四百人が死ぬ治療法。この二つの選択肢はまったく同じ意味であるにもかかわらず、人はその説明の違いに応じて異なる反応を見せる。ダニエルとエイモスが見つけたこの「プロスペクト理論」は、合理的な人間像を掲げてきた既存の経済学を、根底から揺るがすことになる。
■第11章 終わりの始まり
共同研究に対する賞賛は、エイモス一人に集中した。その状況に対し、徐々に妬ましさを感じ始めたダニエルは、エイモス抜きで新たな研究に取り掛かる。人が「もう一つの現実」を想像するときのバイアスに注目したそのプロジェクトが進行するなか、十年間に及ぶ二人の友情の物語は終焉へと近づいていく。
■第12章 最後の共同研究
ダニエルとエイモスの格差は広がる一方だった。そんな中、かつての指導教官をはじめ、彼らの研究は各方面からの攻撃に曝される。その反撃のため二人は再び手を組むも、ダニエルはその途中でエイモスと縁を切る決意を固める。二人の関係が終わったその直後、エイモスは医師から余命六か月と宣告される。
■終 章 そして行動経済学は生まれた
脳には限界があり、人の注意力には穴がある。ダニエルとエイモスが切り拓いたその新たな人間像をもとに、「行動経済学」は生まれた。エイモスの死後、その権威となったダニエルは、ノーベル経済学賞の候補者に選ばれる。発表当日、一人連絡を待つダニエルの胸には、エイモスへのさまざまな思いがよぎる。
■解 説 合理と非合理のキメラ 阿部重夫
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