昭和三十二年(一九五七年)十月発売の「別册文藝春秋」で、「小説つくりの部屋」と題して十数人の人気作家の書斎が写真で紹介され、続けて大宅壮一のエッセイ「書斎の考現学」で、書斎の様子からみる作家の個性を論じている。五味康祐のケレン味たっぷりの書斎の紹介に続き「これに比べると、村上元三の書斎はずつと平凡で、小次郎のような華かさは見られない。似ているのは、主人公の頭髪くらいのものだ」と、ごく短く触れられている。
しかし、戦後しばらくタブーとされていた剣豪小説を復活させた記念碑的作品が、その「佐々木小次郎」であったことを思えば、この質素な書斎こそ、庶民の中から生まれた反骨精神の作家に相応しいものに見えてくる。
明治四十三年(一九一〇年)、朝鮮に生まれる。昭和九年のデビュー作「利根の川霧」は、懸賞小説の選外佳作。浅草の大衆演劇の脚本を書き、その縁で長谷川伸に師事。その主宰する「大衆文藝」に掲載された「上総風土記」で、昭和十六年に直木賞を受賞する。
戦後も「佐々木小次郎」をはじめ、「水戸黄門」「勝海舟」「次郎長三国志」といった多彩な人気作を発表、大衆文学の旗手であり続けた。直木賞選考委員としても、昭和三十年から平成二年(一九九〇年)まで、実に三十五年間の最長在任記録をもつ。
平成十八年、九十六歳で死去。息長く、読者に愛された作家だった。
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